「魂のまなざし」(2020)を観る

晴。
 
午前中ずっとぼーっとする。
 
昼すぎ、珈琲工房ひぐち北一色店。早く傾いてきた日差しの中で、前に真っ直ぐに伸びる田舎の幹線道の、フロントガラスからの秋の景色が美しい。完璧な世界だと思う。
 中公文庫新刊の、富士正晴『不参加ぐらし』を読み始める。富士正晴さんは、初めて読むのではないか。ずっと気になってはいたのだが、文庫本の人であるわたしは、あまり文庫化されていなかった富士さんに、これまで縁がなかった。いや、それでもいくらかは文庫本で出ていたような気もするので、まあ、若い頃のわたしはクソ生意気だったから、富士正晴ごとき眼中になかったのかも知れない。いずれにせよ、かつてのわたしに、このおもしろさはわからなかっただろうと思う。
 
渡辺一夫訳のラブレーを読む。
 
夜。
U-NEXT で『魂のまなざし』(2020)を観る。監督はアンティ・J・ヨキネン。あるブログで紹介されていて観てみたのだが、すばらしい映画だった。フィンランドの女性画家、ヘレン・シャルフベック(1862-1946)を主人公にして描く。わたしは映画というものを知らないが、まずはとにかく絵が美しい作品だった。どこを切り取っても、それだけで非の打ち所のない、古典的な完璧な構図になっている。光と色彩も美しい。まずはそこと、音楽に惹かれたが、それに主人公を演じるラウラ・ビルンの静かな凄みが加わってくる。
 特にA・マルチェッロのオーボエ協奏曲をバッハが編曲した BWV974 のアダージョが重要なところで二度使われていて、印象深かった。わたしは愛という言葉があまり好きではないが、ここでなら愛とその破局、という形容をしてもいいと思う。わたしは映画って、長いのが苦手なのだが(二時間も貧弱な注意力が続かない)、ここでは121分が長くなかった。

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なお、どうでもいいが主演のラウラ・ビルンは撮影当時まだ30代で、老けているといってもいいヘレン役は老けメイクと演技なわけだろうが、すごいもんだなあと映画初心者は思いました。