小林章夫『エロティックな大英帝国』

晴。午前中でも車の中は暑い。
大垣。この頃、車でひとりで遠出するとき、よくバッハの平均律を聴いている。今日はグルダのディスクだ。
BOOK OFF岐阜うさ店。11冊。

小林章夫『エロティックな大英帝国』読了。イギリス・ヴィクトリア朝時代を生きた紳士にしてエロティカ収集家、また奇書『わが秘密の生涯』の作者と推定されている、ヘンリー・スペンサー・アシュビーを中心として、十九世紀イギリス社会の裏面を描いた、とても面白い本である。自分も著者同様、開高健経由で『わが秘密の生涯』を知り、学生時代に古本屋で富士見ロマン文庫の三巻本(田村隆一訳)を入手していたので、本書は迷わず買って裏切られなかった。もっとも、三巻本の方は、読み始めてみたものの、で面白いにもかかわらず、長すぎて通読していないのだが。(なお、本書に拠ればこの三巻本は全訳のようにも受け取られるが、これも膨大ながら、抄訳である。)本書の中身は詳述しないが、開高健が「大人のための童話」と呼んだエロティカの世界、それもそのイギリス版について、大人の楽しみを味わっていただきたい。名高いクレランド(これも本書に拠れば、「クリーランド」が正しいらしい)の『ファニーヒル』の話もあって、中野好之訳はつまらないらしく、著者が翻訳の腕をふるっていただけるそうである。自分は吉田健一の訳本(未読)を持っているのだが、これはどうなのかな。高名な詩人・スウィンバーンの『フロッシー』は、是非読んでみたい。
 なお、『わが秘密の生涯』のオリジナル・テキストは、すべてウェブ上で読める(こちら)。英語のできる方はどうぞ。

新書529エロティックな大英帝国 (平凡社新書)

新書529エロティックな大英帝国 (平凡社新書)


本日の「千夜千冊」(参照)だが、いま偶々読んでいる川北稔の『イギリス近代史講義』の世界史観と完全に対立する。それはそうだろう、川北はウォーラーステインの翻訳者であり、松岡正剛は反ウォーラーステインだから。しかし、「千夜千冊」のウォーラーステインの回は、あれはなんだ。歯が痛いとかいって、ひどいことになっている。まあ自分も、他の様々な言及で知った気になって、ウォーラーステインを読んでいないのだから話にならない。だから、何もいう資格はないのであるが、どちらにせよ自民族中心主義でないとは言い切れないのであって、それも確信犯だから、いずれも始末に負えない。まあ、松岡などは、日本を、東洋を背負った気になっているから、仕方がないのであろうが。少なくとも云えることは、西洋人にほとんど知られていない松岡がウォーラーステインを否定したければ、ウォーラーステイン並の大著を書かねばならないということだ。まあそれは事実上無理なことだし(才能の問題ではない。知のスタイルの問題である)、それでなくとも、結局松岡は相手の土俵の上に乗っていると思う。そういうやり方をするなら、柄谷行人のようにほとんど絶望的な戦いをするしかない(あんなことが出来るのは、柄谷だけだろう)。まことに東洋というものは、扱いがむずかしいと云わざるを得ない。