坂本龍一「12」を聴く / 中沢新一『今日のミトロジー』

晴。
 
NML で音楽を聴く。■バッハのトッカータ ニ長調 BWV912 で、ピアノはカール・ゼーマンNMLCD)。
 

昼。
坂本龍一『12』落掌、そのまま一気に聴く。大きな病いを得たのち、日記のように書いた音楽的スケッチをまとめたもの。そのまま日付順に並べてある。本当にスケッチのようなもので、はたして「作品」といっていいのか、というところはあるが、それがゆえに殆どあり得ないような音楽になっている。坂本龍一という人は長い間、膨大な情報とコンテンツの海の中で、同時代的なコンセプトをもってアルバムを作ってきた人だと思うが、その「情報とコンテンツの海」は、彼にとって制約でもあったことがよくわかる。ここではコンセプチュアルな制約から解き放たれ、肉体と自然に向かって開かれたということなのであろう、薄いノイズとピアノのたわむれのような曲の、限界のない大きさと静けさに、ほとんど圧倒されざるを得ない。いや、「圧倒」などというには、じつに静かな世界だが。解体され切って、ポツリポツリと水滴が落ちて作る波紋のような音。特に、このアルバムの前半はそういえるだろう。(コレコソガワタシノキキタイオンガクダッタノダ)そんな言葉が頭をよぎったりする。

おもしろいのは、これだけ解体され切っていても、坂本龍一独特のロマンティシズムのかけらのような響きが、何となくすることだ。それゆえ、このアルバムが「癒やし」とか「ヒーリング」といわれないかを恐れる。そういってもおかしいことはないが、しかしこれは「自然」「宇宙」に接続したそれなのであるから、細野さん的な意味で「アンビエント」といった方がまだよいだろう。しかし、そんな言葉の制約も、存在しないところで作られた音楽であるように思える。
 

 
中沢新一『今日のミトロジー』読了。承前。これまでも書いてきたが、可笑しい本。平凡に見える表層に、あっという間にミトロジー(神話学)の魔術で通底器を発見してしまう。その大まじめっぷりが、可笑しくて仕方がない。しかし、「鬼滅の刃」も「進撃の巨人」も「天気の子」も「うっせえわ」も「愛の不時着」も、中沢さんだったら全然驚かないが、阿修羅としての羽生結弦や「SPY×FAMILY」にはちょっと驚かされるし、「おかえりモネ」とか、そんなの観てるの?って感じで笑える。江戸川河口部で牡蠣を獲って食っている中国人コミュニティは知らなかったが、彼ら彼女らが食い散らかした牡蠣殻を黙々と掃除している別の中国人たち(「うっせえわ」精神をもった自覚せざるグノーシス主義者なんだって笑)なんて居るんだ。まったく、まだまだ世界は驚きに満ちているんだなあと、とまあ驚かされる。中沢新一入門として、最良の一冊なんじゃないか。中沢さんってのは、こういうふざけたマジメ人間なのである。 
夜。
冴えない彼女の育てかた」(2014)第3話まで観る。第0話始まり、って先でこんなに爛れるの? 重度オタクの変人主人公はCVつぐつぐ(松岡禎丞)かあ、雰囲気出てるなあ。「ヒロイン」の加藤恵、地味で印象に残らない女の子って設定だけれど、不思議ちゃんで、充分キャラ立ちしてるじゃん。始まりは期待どおりの下らないアニメって感じ。おもろ。このままいってほしい。
 
「青ブタ」新作は劇場版かー。たぶん映画館で観るだろーなー。U-NEXT と契約したのは「青ブタ」2期をリアルタイムで観んがためだったというのは内緒です。