秋田茂『イギリス帝国の歴史』/若田部昌澄、栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』

雨のち曇。
秋田茂『イギリス帝国の歴史』読了。中公新書らしい、堅い学術書。いわゆるグローバル・ヒストリーの進展から影響を受けており、素人目にも充実しているのでお薦めだ。個人的には、「産業革命はなかった」論(シティの重要性が強調される)だとか、第一次世界大戦以降の、帝国の漸次的な解体のプロセスが興味深かった。 帝国の解体は、通念よりゆるやかであったようで、軍事的な優位性を失っても、経済的構造的な手段での支配が続けられていくのである。
 それから、本書を読むと、かつては貿易赤字はやはり問題であったことがわかるが、現代の変動相場制の下では、これは必ずしもそうではないのだろうか。もしかしたら常識なのかもしれないが、どうもこのあたりは無知なので。

イギリス帝国の歴史 (中公新書)

イギリス帝国の歴史 (中公新書)

若田部昌澄と栗原裕一郎の共著『本当の経済の話をしよう』読了。最初に云っておくが、本書の内容が一般常識になってほしいと、本当に思います。この程度のことは前提として抑えておきたい、そういう本です。経済学者と、経済については素人の評論家のコンビというのもいい。読みましょう。
 で、本音だが、こういう本は個人的に読みすぎて、ちょっと経済学にはうんざりという気分にもなっている。もちろん、僕が読んだ経済学本など、まだまだ一般向けにすぎないものばかりだというのは、承知の上なのだが。経済学は、まだもっと先があるというのはわかっている。そこで、何がうんざりさせられるのかというと、本当に理不尽な物言いだということは承知なのだが、経済学というのは「正義」なのである。正義を強要してくるところがあるのだ。経済以上に大切なことはあるのでは、と問えば、経済が悪くなるというのは、人の生き死にに直結するのだと言われて、返す言葉もない。経済が悪くなれば、確かにそれで死ぬ人も出てくる。これには有効な反論はちょっとないのだね。これが「正義」なのだ。
 TPP問題でも、市場競争力のない農家は、コメから別の農作物へシフトすればいいという。「市場経済である以上、品質や生産性を上げる努力をするのは当然じゃない? それができない企業が淘汰されるというのは、他のあらゆる業種で起こっていることだ」(p.153)と、経済学者はのたまうのですね。それは正しいのだが、本当にやりきれない。何となく、世界に愚かさやムダは許されないような気分になってくる。もちろん、現実の世の中は、愚かさやムダばかりだから、それに経済学は苛立っているのだろうが。経済学は正しい。本当に正しいのだ… 俗な言い方だが、確かにお金は、ないよりあった方がいいのはその通りなのだ。これは否定できない… でもまあ、これからも「経済本」を読んでいくのだろうけれど。
本当の経済の話をしよう (ちくま新書)

本当の経済の話をしよう (ちくま新書)