桜井英治『贈与の歴史学』/ラカン『二人であることの病い』

日曜日。曇。
カルコス。

桜井英治『贈与の歴史学』読了。日本中世における「贈与」を記述したものである。名著と呼んで差し支えないと思う。日本は現代でも、お歳暮など、独特の贈与の習慣が生き残っているが、これは中世における「贈与」と無関係ではない。日本の中世は贈与が相当に重きをなした時代であり、経済活動の多くを占めた。例えば面白いのは、中世の一時期に見られる「折紙」というもので、これは寄進物の一種の目録なのであるが、実際に寄進される前に相手に渡し、物の寄進はその後で大幅に遅れてなされるのが一般的であった。これは貨幣とも手形ともちがうもので、お互いにこの「折紙」を送り合って、贈与がそれだけで相殺されることもあったというのだ。
 本書は理論的にも高度であり、モースなどの理論書も咀嚼しながら、抽象的な内容にも踏み込んでいる。(と云っても、本書は具体例に満ちたあくまで歴史書であり、理論書プロパーではもちろんない。)自分のような素人がいうのは不遜だろうが、日本の歴史学もここまで成熟してきたかという、印象を抱かざるを得なかった。経済学徒や哲学徒など、日本史の専門家でない者も、読んで益するところが多いのではないか。

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

ジャック・ラカン『二人であることの病い』読了。ラカンは初文庫化かな?
二人であることの病い パラノイアと言語 (講談社学術文庫)

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NHKの『坂の上の雲』第十二回「敵艦見ゆ」を視る。