クリフォード・カーゾンのデッカ録音全集

クリフォード・カーゾン(1907-1982)が英デッカに残した全録音を網羅したBOXセットが出た(CD23枚とDVD1枚)。早速HMVで購入。何から聴こうか迷う。
 とりあえずラインアップを見てみると、ブラームスのピアノ協奏曲第一番の録音が、三種類もあるのに気づく。録音嫌いだったと云われるカーゾンにしては、めずらしいことなのではないか。自分もこの曲は偏愛していて、ポリーニの最初の録音が究極の参照盤だというのは、前にも書いた。好きなのに意外と選択肢を持っておらず、これは最初に聴くのにふさわしい。ということで、カーゾン三度目の、セルとの録音を聴いてみる。冒頭から、カーゾンのピアノは凄まじい迫力だ。あまり云われないが、カーゾンは大変なテクニシャンでもある。低音の厚みなど、七〇年代のポリーニを思い出させるほどだ。実際、音色がもっと官能的なら、ポリーニ並の人気ピアニストになれただろうと云いたいくらい。でも、カーゾンは音のエクスタシーを追求しない。これはきっと確信犯だ。これだけの技術があって、輝かしい音色を追求できない筈がない。これが、彼の美意識なのだ。で、第一楽章、第二楽章は曲の魅力を充分に聴かせてくれる。終楽章は、セルの指揮も含めて、大変な名演。なお、完璧主義者だと云われるセルだが、この曲では、普通あからさまには聞こえてこないパートが、えらくよく聞こえたりする。楽譜にセルの手が入っているかどうかは、ちょっとわからない。
 曲目をよく見てみると、モーツァルト以外は、ほとんどロマン派の曲である。これは意外。また、モーツァルトベートーヴェンのピアノ・ソナタがないのも意外。で、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番という、大甘の曲もあるではないか。これは怖いもの見たさ(聞きたさ?)で、次に聴いてみた。エクスタシーがなくて、曲の内容を聞かされる感じで、はなはだ奇妙である。この曲を聴いていてこんなに疲れるとは、とでもいう感じだ。で、サー・エイドリアン・ボールトの指揮がすばらしく美しいのはオマケ。でもこの演奏、また聴くと思う。
 最後に、フランクのピアノ五重奏曲を聴く。カーゾンはフランクに合っている。出だしの怪しい雰囲気もいいし、第一楽章のクライマックスなど、あまりの迫力に仮死状態になりそうだ。ボレットとジュリアードSQのコンビの名盤に匹敵する演奏だと思う。なお、ウィーン・フィルハーモニーSQなどというお座なりの名前のついた弦楽四重奏の方だが、これもすばらしい。音はやわからい感じだが、これも意外とフランクに合っている。

Clifford Curzon Edition: Complete Recordings

Clifford Curzon Edition: Complete Recordings