松尾剛次『中世都市鎌倉を歩く』/ポリーニのベートーヴェンop.101

晴。

松尾剛次『中世都市鎌倉を歩く』読了。足利氏や上杉氏の治めた、室町時代の鎌倉に光を当てているところがめずらしい。室町時代になっても、鎌倉は依然として重要な都市でありつづけたことがわかる。
 ところで、本書に限らないが、どうして日本史の本というのは、一般読者が読むということをあまり考慮していないように見えるものが多いのか。「歴史というものは、事実を淡々と書き記していけばよいのだ」といったような、素朴でナイーヴな歴史観しか、歴史家がもっていないためだろうか。読者に媚びる必要はないが、とにかく日本史には、年表を文章化したに過ぎないような「歴史書」が多すぎる。

中世都市鎌倉を歩く―源頼朝から上杉謙信まで (中公新書)

中世都市鎌倉を歩く―源頼朝から上杉謙信まで (中公新書)


ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第二十八番op.101を、ポリーニのピアノで聴く。この完璧主義者の弱音が、こんなに美しいとは。第一楽章も緩徐楽章も、短すぎると思われるばかりだ。もっと長く聴いていたいと思うのに、無常にも終るのが早すぎる。緩徐楽章のワーグナー風の楽句も、繰り返されるということがない。恐らくベートーヴェンの中でも、これは最もロマンティシズムの汪溢した曲であろう。却ってこのように、ロマンティックな曲をがっちりと完璧に弾くというのが、ポリーニには合っているのだと思う。男性的に弾かれた、彼のショパンシューマンがすばらしいように。
ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集

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