前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

晴。
よく寝た。昨晩寝る前に読んでいたのは南方熊楠。熊楠先生はいつも僕の遥か先を歩いておられるわけだが、1cm ずつくらいでもその距離が縮まっただろうかと思う。
 
シューベルトのピアノ・ソナタ第十四番 D784 で、ピアノはマウリツィオ・ポリーニ。何だか知らないがこの動画は埋め込みができないそうである。さて、わたくしはこの曲に取り憑かれているのだが、まさかポリーニの 70年代のライブ音源があるとは。これは聴かずにはおれない。ということであるが、結論的にいうと、やはりポリーニがスタジオ録音を残していないのは納得できる気がした。この曲は第一楽章に尽きるのであるが、その第一楽章のエートスを完璧には表現しきれていないと思う。あとほんのわずか、じつに惜しいというところ。ここはリヒテルに一籌を輸するであろう。しかし、その他の楽章は完璧。シューベルト特有のぶよぶよ肥え太ったところがまるでなく、引き締まって明晰な演奏が繰り広げられている。
 しかし思うのだが、計見一雄先生の仰るように本当にタナトスはないのだろうか。タナトスはなくてアグレッションだけがあると。事実としてはそうなのかも知れないけれど、何かシューベルトには当て嵌まらないようにも思われるのだが。シューベルトのある種の音楽は、感覚的にはとても「死」に近い気がする。そんな気がするだけ? まだまだ「死」がよくわかってない?


モーツァルト交響曲第二十九番 K.201 で、指揮はジョン・エリオット・ガーディナー。出だしが印象的な曲だよね。ガーディナーの音楽作りは新鮮。モーツァルトくらいだとこれみたいに古楽器オーケストラの方が合っているかも。作曲当時モーツァルトは 18歳くらいかな。曲そのものがフレッシュでぴちぴちしているよね。

昼から仕事。

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』読了。人生観が変わるほど楽しい本だった。もう笑い転げて死にそう。題も表紙カバーも何かふざけているのでどういう本?と思われるかも知れないが、若きバッタ研究者の奮闘記である。著者の研究対象はサバクトビバッタで、一定の条件で爆発的に発生し、進路のすべてを食い尽くす。いわゆる「蝗害」を引き起こすバッタである。昆虫学者になるのを夢見た著者が、ポストドクになって、というのはつまり自力で研究者として就職先を探さねばならなくなり、モーリタニアでバッタの大発生を研究し防ごうということに人生を賭けるのだ。本書はその顛末記であり、猛烈におもしろい。読んでいるとまさしく飛んでもない逆境つづきなのであるが、まああとは読めばわかるので書かない。それにしても本書での著者は RPG の「勇者」のように、次々に襲ってくる試練(というしかない)を乗り越えて、どんどん経験値を上げていく。ストーリーも楽しいというか感動的というか、でも思うが、これは偶然じゃないよね。著者のポジティブさがそれを招くのだ。で、たぶん少なくない人がそうなのではないかと思うが、本書の某大学における面接の場面で、僕は思わず泣けましたよ。しかし面接官も、偉い人だな。こんな学者もいるのだなあと思うが、著者もそこでは泣きそうになっていた。人生は不思議だ。
 本書は終っても、まだ研究者としての著者は安定身分ではない。レヴェルアップしても、まだまだ冒険は続く筈だ。著者の奮闘が幸運をもたらしますよう祈りたい気分です。若い人って、こうじゃなくちゃな!

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)