小川洋子『偶然の祝福』

曇。風花飛ぶ。寒い筈だ。
朝起きて、テレマンオーボエ協奏曲ハ短調を聴く(ホリガー)。早朝出勤。仕事前にピリスのモーツァルト、ピアノ協奏曲第二十番K.466を聴く。モーツァルトにしてはピアノの響きが堅いようだ。ピリスの射程は大きいのだが。ベートーヴェン作のカデンツァにはぴったり。

Piano Concertos Nos. 27 & 20

Piano Concertos Nos. 27 & 20


小川洋子『偶然の祝福』読了。陳腐な評語で恥ずかしいが、小川洋子は何と才能のある小説家だろう。読むたびにいつもそう思う。彼女の小説はどれも一種の幻想小説と云えるだろうが、言葉の力で異世界を組み上げるようなそれではない。幻想は、どこか現実世界と混じりあって、世界を異化する感覚がある。本書は、あまり才能のなさそうな(?)女性の小説家が語り手で、その小説は(たぶん)幻想小説とは関係がないのに、その日常こそが幻想世界と繋がっている。例えば、小説家の著書をすべて持ち歩き、彼女の弟だと詐称する、善良だがストーカーじみた男。男は、彼女の小説はすべて自分のことを書いたものだと言う。最終的に男は彼女の前から姿を消してしまうのだが、それは何を意味するか、結局はわからない。ただラストでは、別の男性から彼女のところに届いた、電子オルゴールの「エーデルワイス」が、静かに流れるだけ。
 また、小川洋子の詩的才能は、何とも魅力的なオブジェも創り出す。細かくは書かないが、「涙腺水晶結石症」というのは、洵に惹かれるオブジェを生み出す病ではないか。瞼からぽろりと、涙が結石した水晶が零れ落ちるという、イメージの見事さ!
 それにしても、著者の小説は、作ごとに世界がまったくちがう。もちろん、雰囲気は共通しているのだが、それでもこう次々とアイデアが溢れるのを目の当たりにすると、驚かされる。これは、文体の掘削力もあるだろう。そうそう、本書の文庫解説は、川上弘美である。両者を読んでいる人は、ハハンと思うのではないか。
偶然の祝福 (角川文庫)

偶然の祝福 (角川文庫)