ポール・ポースト『戦争の経済学』/柄谷行人『哲学の起源』

晴。
プール。
ポール・ポースト『戦争の経済学』読了。山形浩生訳。本書は訳者の言うとおり、戦争を題材に採った、一種の経済学の(初歩的な)教科書だと云えるだろうか。基礎的な経済学を使いながら戦争を分析するもので、いわゆる堅い本であり、扇情的な部分はまったくない。だから、仮に戦争が儲かるものだとしても(じつは必ずしも儲からない)、戦争をすべきだとか、そういうことは一切書いていないのである。目覚しい結論というものもない。戦争を、経済という観点で切り取った、とも云えよう。自分としては、戦争に反対するのに理由はいらないと思うが、そう思ったからと云って、現実に軍隊があり、戦争が行われるのを簡単に止められるわけではない。まず、事実は知らねばならない。
 なお、じつは本書を読む前に、「命の値段」というトピックに触れてあるかなと思っていたのだが、簡単な言及以外にはなかった。どちらかと云うと、戦争を大局的に見た本である。しかし、戦争で死ぬのは個々人であるというのも、真実である。かかる問題は、本書の範囲を超えているとしか云えない。いずれにせよ、読んで損はない本である。

戦争の経済学

戦争の経済学

柄谷行人『哲学の起源』読了。骨格だけで枝葉のない文章が続くと閉口させられるが、ところどころで、ピントが合ったように文章が立ち上がってくる瞬間がある。例えば、パルメニデスからカントが立ち上がってくる(第四章)。そういうところは、とても面白い。正直言って自分には、柄谷のいう「イソノミア」がどう現代に活かせるのか、さっぱりわからなかったが、そこらあたりはもっと賢い人がやってくれるのだろう。とにかく、柄谷行人はやはり面白い。
 なお、ところどころで混入する理系的な比喩は、あまり真面目に取らない方がいいだろう。例えば量子力学において、柄谷の言うような(p.110)、粒子は「質料」ではないし、波動は「運動」などではない。こういうところは、はったりをかましているだけなので、無視しても問題はない。
哲学の起源

哲学の起源