バックハウスの弾く、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集

ベートーヴェンのピアノ・ソナタのCDを聴いていると、どうもスタンダードな演奏を持っていないような気がする。というわけで、やはりバックハウスの全集は持ってないといけないかということで、BOXセットを買いましたよ。いわゆる三大ソナタのディスクは手元にあるけれど、これだけではいけないよな、ということです。
 とりあえず聴いてみたのは、第一番、第十七番「テンペスト」、第二十四番、第三十番。第一番の冒頭から、ピアノの音のあまりの美しさにびっくりする。澄み切ったブルーの水の色というか、吉田秀和さんではないが、ちょっとすっぱいような音というか。タッチは太い感じで、和音がじつにきれいだ。こういう表現はどうかと思うのだが、敢て「ベートーヴェンの音楽の本質をつかんだ」演奏というべきか。それ以外云う言葉がないのですよ。「テンペスト」も、終楽章はこれほど深い曲だったと初めて気付かされた。確かにバックハウスの技巧はもう衰えかけていて、第二十四番でも第二楽章は技術的にかなり厳しい。他の曲でも右手と左手がズレたり、テンポがゆらいだりすることは、どうしてもある。しかし、それを瑣末だと思わせる演奏が凄いのであり、第三十番の終楽章の変奏曲は、聴いていて思わず瞑目してしまうくらいだ。この曲はクラシック音楽の行き着く果てであり、芸術としての高みの極致のひとつだろうが、バックハウスの演奏は、それを充分に示すだけのものになっているのではないか。他の曲も順次聴いてみるつもり。

Original Masters  Decca Beethoven Sonatas: Wilhelm Backhaus

Original Masters Decca Beethoven Sonatas: Wilhelm Backhaus