クラカウアー『天国と地獄』/笙野頼子『レストレス・ドリーム』/パオロ・バチガルピ『ねじまき少女(下)』

晴。
ジークフリート・クラカウアー『天国と地獄』読了。副題「ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ」。オッフェンバックの生涯をなぞりながら、第二帝政下のパリを描いた著作。重量級。

天国と地獄―ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ (ちくま学芸文庫)

天国と地獄―ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ (ちくま学芸文庫)

笙野頼子『レストレス・ドリーム』読了。傑作。しかしこの小説は、これを評する者の力を浮き彫りにしてしまうような、恐ろしさを持っている。本書の悪夢は何かのメタファーなのか、読むものは誰でも考えてしまうだろう。とにかく重要なのは、これが戦いの小説だということ、しかもそれが、どうして安っぽいRPGゲームのような体裁を採っているのか、ということだろう。イメージの強烈さと一種の幼稚さ。これが時代(これはかなり長いスパンである)と通底していないとは、到底考えられない。いや、敢て言えば、時代との戦いなのだろう。そしてこれは、現時点でも依然として有効であるように思われる。パオロ・バチガルピ『ねじまき少女(下)』読了。上巻を読んでから暫くほったらかしにしておいたのは、何よりも本書が「小説」として幼稚で、自分にはつまらなかったからである。莫大な宣伝費を使う類の、悪い意味でのハリウッド映画のようだ。SF的な世界設定も、とりたてて興奮させられるようなものではない。それから、娯楽作品だから目くじらを立てる必要はないかも知れないが、本書の「オリエンタリズム」は不愉快だし、これがアメリカのSFの賞を総なめにしたとか、タイム誌の「今年の十冊」に選ばれたなどというのは、PCという点からも、ちょっと信じがたい。日本(人)のステロタイプな性格付けなど、うんざりさせられる。久しぶりに海外SFを読んだわけだが、これはジャンルのせいなのか。かつてSFをよく読んだ者としては、そうは云いたくないところではある。
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)