岡田温司『アダムとイヴ』/キース・ロバーツ『パヴァーヌ』

晴。
歯医者。虫歯かと思って行ったら、知覚過敏だった。強く磨きすぎなのかなあ。まあいい機会なので、歯垢を取ってもらうことにする。これがまた長くかかるのだが。

岡田温司『アダムとイヴ』読了。中公新書岡田温司も、これで四冊目になる。中身は題名どおり。楽しく読みました。ところで、「イヴ」と「エヴァ」は同じものを指しているが、どういう違いなのだろうか? 本書は題名にあるとおりで、「イヴ」の表記だが、学術書などでは「エヴァ」が多いような気がする。

キース・ロバーツ『パヴァーヌ』読了。越智道雄訳。歴史改変SFの傑作とされる。邦訳は数々の事情で、幻の名作扱いになっていたもの。分岐点は十六世紀イギリスで、エリザベス一世が暗殺され、ローマ教会が暗黒世界に君臨するという設定になっている。科学の進歩は止められ、二十世紀になっても電磁気の理論は公にされず(じつは理論自体は既に密かに発見されていたということになっている)、移動は軌道上を走らない(公道を走る)蒸気機関車に依り、通信は、ギルドが塔の腕木信号を双眼鏡で確認・伝達するというシステムになっている。この、移動と通信の設定がSF的ガジェットになっているわけだ。(これらは、現実にもかつて存在したものらしい。)その絶対的な(中世的)法王庁の支配が、最終的に反乱によって覆されるという展開が目指されるが、話は反乱側の一時的な敗北の時点で終りを迎える。
 文庫解説にもあるが、著者の筆力は確かに本書の最大の魅力だ。導入は話がなかなか見えて来ず、正直言って忍耐が必要だったが、弾みが付き出すと止まらなくなってくる。ただ、雰囲気は全体的に陰惨で、お世辞にも読んで楽しい書物だとは云えない。最終的なカタルシス(も限定的ではある)がなければ、投げ出してしまいたくなるかも知れない。人物の造形・描写も、小説として見て高度だとは云えない。それでも、作者の一種偏執的な迫力があって、それが読ませるのだと思う。
パヴァーヌ (ちくま文庫)

パヴァーヌ (ちくま文庫)


音楽を聴く。■ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第九番、第十番(バックハウス)。バックハウスのピアノの音が、吉田秀和さんも書いていたように、本当に美しい。それに、バックハウスのタッチというのは不思議だ。意図的に弾いているという感じが極小である。きつく弾くかゆるく弾くか、いずれにせよタッチにはピアニストの意志が感じられるものだが、バックハウスのピアノは、それ自体が勝手に鳴っているかのように聞こえないでもない。例えばポリーニ内田光子などは、一音一音に意志がこもっていて、そこがまた面白いわけであるが、バックハウスにはそういう感じがない。そこが、ノイエ・ザハリッヒカイトのピアニストだと言われたりもする訳だが、ちょっと違うような気もする。■モーツァルト:ピアノ協奏曲第二十二番(リヒテルムーティ)。名曲だなあ。リヒテルのピアノが素晴らしいのは言うまでもないことだが、ムーティの指揮も充実。最初カラヤンかと思ったくらい。