一般相対性理論を学んでみる

広江克彦の『趣味で相対論』とディラックの『一般相対性理論』を精読する。かたや泥臭いまでに丁寧であり、かたや最小限度にシンプルと、対照的な両者だが、それゆえに併読すると効果的だ。
 さて、一般相対性理論というのは、究極的には二つの方程式に帰着する。ひとつは「測地線の方程式」、すなわち
   
であり、もうひとつは「重力場の方程式」あるいは「アインシュタイン方程式」で、これは
   
である。
 「重力場の方程式」は、物質やエネルギーによって空間(リーマン空間)がどのように曲げられるかを記述する式であり、「測地線の方程式」は、その空間内を質点がどのように運動していくかを記述する式(すなわち運動方程式)である。一般相対性理論では、運動は空間にいわば押しつけられているので、質点は、測地線に沿って「真っ直ぐに」進むだけである。したがって「測地線の方程式」よりは、空間の形状を決定する「重力場の方程式」の方が重要だといえる。重力場の方程式は複雑なものであるが、これを「解く」というのは、最終的には、計量テンソルの10個の成分(これは対称テンソルなので、独立な成分は10個)を決定することに他ならない。なぜなら、空間の構造は、各点における計量テンソルの値によって完全に決定されるからである。どういうことかと云えば、計量(テンソル)とは、空間の各点において、そのすぐ隣の点との微小距離をdsとすれば、
   
として、その微小距離を記述するものになっているからである。したがってこれにより、空間の形状が決まる。これを見ると、リーマン空間ユークリッド空間のように平坦ではなく、うねうね波うっているのである。例えば、重力場の方程式の(有名な)シュバルツシルト解などが計量を記述しているのは、そのためである。
 一般相対性理論は、4次元の「リーマン空間」を土台にして築かれている。リーマン空間幾何学的な構造が、物理的な内容を大きく決定しているので、理論の理解には、リーマン空間のおおよそのイメージが湧くようになることが必要だ。そのための数学的な概念として大切なものは、どれくらいあるだろう。個人的には、既出の計量テンソルの他に、クリストッフェル記号、共変微分、(リーマン‐クリストッフェルの)曲率テンソルのイメージがつかめれば、かなり良いのではないかと思う。それから、共変微分と深い関係のある「(ベクトルの)平行移動」。
 「共変微分」というのは、リーマン空間に特有の微分である。リーマン空間では、座標による普通の(偏)微分は、テンソルにならない。適当な(共変)ベクトル偏微分したものは、座標変換によってきれいな形にならないのである。そこで、 の代わりにを使って、共変微分
   
と定義してやる(反変ベクトルを共変微分するときは、上式の右辺第2項の符号がプラスになる)。これはテンソルになり、ベクトルの「並行移動」に関係がある。というか、共変微分を使えば、ベクトルを微小に平行移動したとき、移動先でベクトルがどう変化したかが判るのである。
 ここで、リーマン空間特有の変化の分を示しているガンマが、(第二種の)クリストッフェルの記号であり、これは計量テンソルを用いて
   
と定義されるものである。なお、これはテンソルではないことに注意。
 (リーマン‐クリストッフェルの)曲率テンソルは、空間のゆがみを表す量で、クリストッフェルの記号を用いて
   
と定義される。これは(テンソルでない)クリストッフェル記号から作られているが、こちらはちゃんとテンソルなのである。そして、曲率テンソルは、共変微分と深い関係がある。すなわち、適当な(共変)ベクトルについて、
   
なる演算を定義すると、共変微分の定義式を代入して計算してやれば(計算は少し面倒)、
   
の関係を満たすのである(こちらを曲率テンソルの定義としてもよい)。これから、「曲率テンソル」が実際にちゃんとテンソルであることもわかる。この式の意味は、共変微分を2回つづけて行なうとき、(空間の曲りのせいで)微分の順序によって結果が変り、そのゆがみが曲率テンソルにあらわれる、ということである。
 以上、繰り返すが、クリストッフェル記号、共変微分、(リーマン‐クリストッフェルの)曲率テンソルは重要である。
 その他には、曲率テンソルから縮約によって作られる、リッチ・テンソル
   
や、リッチ・テンソルをさらに縮約した「リッチ・スカラー」乃至「スカラー曲率」
   
もある。また、上の「重力場の方程式」に出てきたアインシュタインテンソルは、リッチ・テンソルスカラー曲率を用いて、
   
と定義される(リッチ・テンソルは、計量テンソルを使って添え字を持ち上げた)。