グレン・グールドの「インヴェンションとシンフォニア」、ヴィキングル・オラフソン発見

曇。涼しい。
 
イチジクの初物。

 
 
時々バッハの「インヴェンションとシンフォニア」が聴きたくなる。で、NML にある録音を聴こうとしたのだが(例えばこれ)、今日はどうもちがうって感じだった。これは、その演奏自体が悪いということではない。グレン・グールドのディスクが思い出されてしまうのがいけないのだ。それも、たんに演奏そのものというより、グールドのディスクの特殊性がある。
 「インヴェンションとシンフォニア」は、全部で15曲ずつあって、ふつうはインヴェンションならインヴェンション、シンフォニアならシンフォニアをまとめて15曲、別々に第1番から順に録音される。しかし、番号の同じインヴェンションとシンフォニアは調性も同じであり、バッハは明らかにそれを意識して作曲したにちがいない、ということだろう、グールドのディスクでは同じ番号のインヴェンションとシンフォニアはひとつにまとめられていて、しかも番号順ではなく、関連調性が並ぶように配置されている。というグールドのディスクにわたしは慣れてしまったので、そこはどうしようもなく、他の録音だと違和感があるのだ。
 で、グールドの録音がひさしぶりに聴きたくなったのだが、グールドは基本的に NML には入っていないのだな。NML には、大手ではソニー・ミュージックレコーズだけが参加していないのである。なので、自分の CD からリッピングして Clementine で聴こうとかと思ったが、ふと、(これも)ひさしぶりに(ポータブル)CDプレーヤー(CD WALKMAN D-NE920)で聴いてみた。音は PC+USB DAC で聴くのと、それほどちがいはない感じ。
 それにしても、グレン・グールド、呆れるほどの天才だな、ちょっと飛び抜けていて、似たような存在が思い浮かばない。作曲家ではなく演奏家、ピアニストで、ここまで突き抜けた存在が出てくるというのも、不思議な感じがする。20世紀を代表する天才中の天才の、ひとりであろう。

なお、わたしにとって似たような存在のグールドのディスクが、もう一枚ある。それはブラームスの「間奏曲集」で、ブラームスの間奏曲は、彼の晩年の小品集の中に散らばっているのだな。グールドはそれをまとめて、上と同じく関連調性が並ぶように、独自の配列で演奏している。これも、他のピアニストの録音を聴いていると、これじゃない感がすごい。もちろん若きグールドのスローで耽美的な演奏自体も天才的にすばらしく、グールド自身のお気に入りでもあった筈である。自分で、「セクシーな」演奏だといっていた。 

 
コメダ珈琲店各務原那加住吉店にて昼食。いつものミックストースト+ブレンドコーヒー。
外気34℃で過ごしやすい。
 
NML で音楽を聴く。■バッハの前奏曲とフゲッタ BWV902、「今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ」 BWV734(ケンプ編)、平均律クラヴィーア曲集第一巻〜第十番 BWV855、第五番 BWV850、第二番 BWV847、「いざ来ませ、異邦人の救い主よ」 BWV659(ブゾーニ編)、「いざ、罪に抗すべし」 BWV54(オラフソン編)、イタリア風アリアと変奏 BWV989、インヴェンション第十二番 BWV783、第十五番 BWV786、シンフォニア第十二番 BWV798、第十五番 BWV801、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第三番 BWV1006〜第三曲 ガヴォットとロンド(ラフマニノフ編)、平均律クラヴィーア曲集第一巻〜前奏曲 BWV855a(ジロティ編)、協奏曲 ト長調 BWV974(原曲:A・マルチェッロ)、オルガン小曲集〜「われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」 BWV639(ブゾーニ編)、幻想曲とフーガ イ短調 BWV904 で、ピアノはヴィキングル・オラフソン(NML)。
 めっちゃ驚いた、現在でもこんな巨大で明白な才能が存在するんだ。辻井伸行君を見つけたときも驚いたが、それ以来の圧倒的才能だな。しかし、ほんと自分は何にも知らんな、このレヴェルの才能を知らなかったというのだから。
 アルバム全体を聴いた。2018年の録音。ヴィキングルはアイスランド出身で現在39歳というから、まだまだ若い。上の曲リストを見てもわかると思うが、一筋縄ではいかない選曲である。編曲ものが多いし、短い曲が中心だ。平均律クラヴィーア曲集からでも、それをさらに編曲したものを弾いていたり。これだけでも、とても知的でもあるピアニストだとわかる。仮に辻井君と比較してみると、辻井君はベートーヴェンベートーヴェンらしく、ショパンショパンらしくという正統的な「天使」だが、ヴィキングルは、何を弾いてもヴィキングル、というタイプかも知れない。ま、アルバム一枚聴いただけでは、というところだが、まあ、これだけでも突出した才能というのはどうしたって明らかだよね。すごかった。
 既に CD はたくさん出ている。
バッハ・カレイドスコープ

バッハ・カレイドスコープ

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フィリップ・グラスの「グラスワークス」〜I.オープニングで、ピアノはヴィキングル・オラフソン(NML)。坂本龍一が絶賛したという、ヴィキングルによるグラス。いかにも坂本が好みそうな甘いグラスで、これもまたヴィキングルの射程がすごい。ほんと、いまのような枯渇した時代にも、とんでもない才能って出てくるものなんだなあとつくづく思う。
 
ヴィキングル・オラフソン インタヴュー 世界を切り拓く新世代ピアニスト、10月には来日公演も! | Mikiki
ヴィキングル・オラフソンという、とんでもない才能を持ったピアニスト
 
 
夜。
YouTube でヴィキングル・オラフソンのピアノを聴く。
まずは公式チャンネルにたくさんあるので、そちらを聴くべし。
その他。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第三番 op.37 で、指揮はエバ・オリカイネン、アイスランド交響楽団YouTube)。2020.9.17 のライブ録音。エアチェックされたもので、音質はとても悪い。こういうふつうの曲も弾くのだな。やわらかく巨大で美しく、ユニークという他ない。聴いていておもしろいっていったらなく、わたしは肯定する。終楽章はふつうの意味でよい演奏。
モーツァルトのピアノ協奏曲第二十四番 K.491 で、指揮はパーヴォ・ヤルヴィフィルハーモニア管弦楽団YouTube)。ユニーク! カデンツァはヴィキングルの即興なのか?
◯バッハのピアノ協奏曲第五番 BWV1056 で、指揮はパーヴォ・ヤルヴィフィルハーモニア管弦楽団YouTube)。一転してふつうによい演奏。これはヴィキングルがおとなしいのではなく、この個性を飲み込んでしまえるバッハの巨きさなのだと思う。
ブラームスの間奏曲 op.117-1(YouTube)。よい。
 
ヴィキングル・オラフソンは、20世紀の個性的な大ピアニストたちを思い出させる器の大きさだな。どれを聴いてもそれは痛感する。