山本義隆の熱学史/加藤周一

晴。
山本義隆『熱学思想の史的展開2』読了。多少の数学と物理学の知識が必要だが、それがあれば、ここで繰り広げられるドラマは、実に面白いだろう。本巻では、まだ熱力学という学問のしっかりした礎石は築かれてはいない。例えば、「熱素」というのは現代の物理学では既に捨てられた概念だが、これが否定されるのは随分後になってからである。それにも拘らず、この概念が、熱現象を解明するのに大きな役割を果たしているというのは、興味深い事実である。そもそも、「エネルギー」という概念がまだ存在していないのだ。その中で、本巻のヒーローはカルノーである。このカルノーとジュールの仕事が、クラウジウスによる「熱力学第一法則」の確立に総合されていくのだが、それは次巻の話となる。

熱学思想の史的展開〈2〉熱とエントロピー (ちくま学芸文庫)

熱学思想の史的展開〈2〉熱とエントロピー (ちくま学芸文庫)

妹と甥っ子たち名古屋に帰る。ふう。


加藤周一『言葉と戦車を見すえて』読了。最初の方は典型的な「自虐史観」で、別にナショナリストでもない自分ですら「それはないだろう」と思われるところがかなりある。読んでいると、何となく日本人が狡猾な恥知らずのように思われてくるのだ。しかし、敢ていえば、日本人が外国からそう見られる、実際にそういうところがままあることは、確かに認めねばならないだろう。我々には、外からどう見られるか、あまりにも無頓着なところがある。こうやって耳の痛いことを言ってくれる人が、我々には必要だし、今では稀になってしまった。
 それから、本書にある日本人の「なしくずし」癖みたいなものは、これはちっとも変っていないのだなと思わされた。著者は、日中戦争から太平洋戦争に至る過程や、戦後の再軍備化の過程が「なしくずし」的だったことを述べているのだが、今でも格差社会の実現のために「なしくずし」的に政策が取られていった点など、日本的だと言わざるを得ない。

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)