辻井喬と上野千鶴子

曇。
辻井喬上野千鶴子の対談『ポスト消費社会のゆくえ』読了。題名は内容を忠実に反映しているとはいえない。本書は上野が、西武百貨店やセゾン・グループの、文化面も含めた企業戦略について、辻井(堤清二)に対し徹底してヒアリングを行ったものである。一見、上野としては意外な面をみせているようにも思われるが、上野はまた、記号論的な消費社会論の著作もあることや、社会学者としての実力をを考慮すれば、決しておかしな話ではない。実際、上野はセゾン・グループの社史の執筆に携ったことがあるそうで、かなりの細部まで把握しながら、どこか飄々とした辻井に舌鋒鋭く迫っていくのが印象的だ。
 ただ、問題は自分の方にあるのであって、端的に言ってしまえば、自分はセゾン的な文化戦略の恩恵を直接受けたわけでもないし、そこのところに敏感であったわけでもなく、同時代的な間接的な影響しか与えられていなかった、ということがある。例えば岐阜にも(名古屋よりも二十年以上前に)パルコがあったが、それは自分には縁無き存在だった(その岐阜パルコもいまではないが)。単に田舎者だったということである。そこで言えば、本書には、自分に欠けているところを大いに教えてもらったわけで、とりわけ自分には、公共的な共同体に対する感覚が鈍いことがよくわかった。上野が「共同体的な発想を右側にごっそりもっていかれた」という筈である。
 それにしても、やはり色々な意味で大きな存在である辻井に対し、そこにズバリと踏み込んでいく上野の鋭さは見事だ。まったく「大人」の遣取りという感じで、これを読んでいると、学説紹介以外にはサブカルしか語れないような今時の社会学者とは、上野は一歩も二歩も違うと思わざるを得ない。

ポスト消費社会のゆくえ (文春新書)

ポスト消費社会のゆくえ (文春新書)