リヒテルの弾く交響的練習曲

リヒテルの弾くシューマンの交響的練習曲のディスクを入手したので、早速聴いてみた。まだリヒテルが圧倒的な技術をもっている頃である、一九七一年のスタジオ録音であり、音質がよくて、冒頭から美しい響きが期待をもたらす。スタジオ録音であるのに相当に即興的な印象を与え、ロマンティシズムの極致である。弱音と爆発的強音の、ダイナミズムの交代も激しい。それでも、曲を壊しているとは感じられない。まさしくリヒテルにしか弾けないシューマンであると云えよう。なお、シューマンの死後にブラームスが出版した六つの変奏は、第五曲だけ省かれて、第五変奏と第六変奏の間に挿入されている。これらも優美な演奏だ。総じて判断すると、この曲の最高の演奏の一つであるだろう。
 併録された「色とりどりの小品」op.99は初めて聴くが、なかなかいい曲集である。作品番号は後のものであるが、ライナーノーツによれば、すべてが晩年に書かれたものではないらしい。曖昧模糊とした曲もあるが、実際、初期の作品を思わせる、あざやかな曲も少なくない。全曲通して聴くと、さすがに長すぎるとは思うが。ここでも、リヒテルは見事。シューマンの曲は、テクニックと詩情の双方を兼ね備えているリヒテルのようなピアニストでないと、なかなか魅力を充分に発揮できないこともあるので、この演奏は嬉しいものだ。
 しかし、リヒテルの録音というのはどれくらいあるのだろうね。スタジオ録音でも気づきにくいディスクがあるのに、ライブ録音もあるからなあ。これからも探すと思う。

Schumann: Piano Works

Schumann: Piano Works