フリッチャイの指揮するモーツァルトの「大ミサ」

フリッチャイの指揮する、モーツァルトの「大ミサ」ハ短調K.427である。ベルリン放送交響管弦楽団。震災追悼というつもりではなかったのだが、先日たまたま購入したので聴いてみた。
 まず気になったところから。フリッチャイは初めてなのだが、かなりテンポを動かす、ロマンティックな演奏という印象である。自分はガーディナーの、古楽器オーケストラによる引き締まった演奏を聴きなれていたので、ちょっと戸惑った。特に、オーケストラのパートの分離がよくなく、響きがお団子状になるきらいがある。ソプラノはオペラのような発声*1で、もう少し抑えてもよかった。また、これは指揮者のせいではないけれど、合唱の歌詞が聞き取りにくい。
 そういうわけで、どちらかというと長調の部分が合っているよう。Laudamus te など、ぴったりである。曲頭の Kyrie は荘重な導入がよく、これはテンポのゆらぎはあまり気にならない。逆に、Gratias は失敗。ここの部分はオーケストラ・パートにメリハリが必要だが、鉋で削ってしまっている。
 しかし、である。この曲のクライマックス、Qui tollis peccata mundi は、冒頭から霊感に満ち、最高度の劇的緊張感が保たれていて、とてつもない名演になっている。聴いているのが怖ろしくなってくるほどで、正直言って目頭が熱くなるのを抑えられなかった。この部分だけでも、このディスクを買う価値があるくらいだ。Miserere nobis を繰り返しながら静かに木管が入ってくるところ、ここも見事。
 なお、この曲はたしか(定かでない)モーツァルトの結婚と関係があったように記憶しているが、明らかに彼の最高傑作のひとつなのに、何故か途中で書きやめて未完になっている。これが全曲完成せられていたら、という気持ちは誰でも持つのではないか。補筆された部分は、別にこちらはちゃんと集中しているつもりなのに、聴いていて眠たくなってくるのは不思議だ。

おまけのハイドンの「テ・デウム」、これはじつに曲も演奏も最高。やはりハイドンも超一流だ。

モーツァルト:大ミサ曲

モーツァルト:大ミサ曲

なお、アマゾンでは品切だが、HMVではまだ新品が売られている(こちら)。

*1:アマゾンのレヴューでは皆ソプラノのシュターダーを絶賛している。自分はオペラの発声が嫌いなので、これが気になるのかも知れない。