大嶽秀夫『ニクソンとキッシンジャー』

晴、
音楽を聴く。■マリピエロ:交響曲第二番(デ・アルメイダ)。■マーラー交響曲第五番(テンシュテット)。マーラーの音楽の流れに寄り添った演奏。不満が少ない。特にアダージェットがよかった。ただ、LPOはあまり上手くない。録音も、強音では音が割れたりしている。
浅田真央ちゃんの演技には素直に感動したので、そのバックの曲のラフマニノフ、ピアノ協奏曲第二番が聴きたくなる。リヒテルのDG盤で聴いたのだが、何度も聴いた録音なのに、また発見があった。云うまでもなく素晴らしい演奏で、いかに同国人とは云え、リヒテルラフマニノフは、ドイツ音楽を得意とする人の演奏とは思えないくらい、本質的なそれになっている。技術ももちろんだが、リヒテルが曲を把握する能力は比類ない。聴いていると、リヒテルは消えてしまい、ただ音楽だけが鳴っているような印象すら受ける。この曲は若い人たちの演奏も好きだが、リヒテルはやはり別格だ。なお、CDは単発でもいいが、この演奏を含む、リヒテルのDG(ドイツ・グラモフォン)への全録音を収めたBOXセットがお買い得。

Sviatoslav Richter pianist of the century

Sviatoslav Richter pianist of the century


大嶽秀夫ニクソンキッシンジャー』読了。この本はとても為になった。著者のことはよく知らないが、これほど冷徹な仕方で、はっきりと政治(本書では特に外交)を語れる人が日本にいたとは。ニクソンキッシンジャーも自分は無知であり、それほど興味深い人物とも思っていなかったが、本書はそれを覆してくれたわけである。実際、本書に見られるニクソン像は、多くの人にとって意外なものなのではあるまいか。ここでは、ある意味でニクソンは、偉大な政治家と言ってもおかしくないように記述してある。
 また、本書を読んで強く印象づけられたのは、漠然とした言い方になるけれども、外交は「性悪説」に基いてなされるということであり、また、バランス・オブ・パワーという発想の重要性である。これらは、日本人が苦手な思考法なのではないか。むろん自分はこれらを絶対視するつもりはないが、最近のアジア情勢を見ても、かかる発想が適用できるのは明らかだろう。
 もっとも、以上は個人的な印象であり、誤読であるかも知れない。本書は徹頭徹尾事実の書であり、歴史的解釈である。価値判断的な評語はほとんど登場せず、一貫したパースペクティブを以て、ニクソンキッシンジャーの「合作」である外交が分析されている。これは徹底したもので、本書の魅力はその透徹性にあるだろう。外交というものについて、自分には本書はとても考えさせられるところが多かった。ちなみにキッシンジャーは、「日本の指導者は、概念的に考えられず、長期的ヴィジョンがない」(p.104)と批判的だったという。本書を読むと、そのことは納得させられるところがある。