ネグリ、ハート『コモンウェルス(下)』/平野啓一郎『滴り落ちる時計たちの波紋』

晴。
ピリスのモーツァルト、ピアノ・ソナタ第四番を聴く(新盤)。もう少し音が丸ければ、モーツァルトとして完璧なのだが。でも、テンポは適切だし、いい演奏。下の You Tube の動画はこの録音で、音質がCDに比べ劣るだけ、音がやわらかくなって却っていい感じだ。

下のグルダの演奏は、これ以上を望みがたい名演。あまりに素晴らしいので、グルダが即興で装飾音を付けているのが残念なくらい。


アントニオ・ネグリマイケル・ハートの共著『コモンウェルス(下)』読了。面倒くさい書物で、自分には隅々まで理解できたとは云いがたいが、どうも気に入らない。例えば訳者解説では言及されていないが、本書は徹底的にイデオロギー的な書物である。つまり、暴力を肯定する立場で「革命」を要求する。しかし、その対象ははっきりとはしていない。訳者たちの述べる、いわゆる「アラブの春」などはその一例になるのだろうか。確かに「アラブの春」は、有象無象どもによる「革命」に見えた。しかし、それは本当にそうだったのか。後に残ったのは、無秩序状態でなければ、新たな軍事政権だったのではないか。いや、知ったふうなことは言わないでおこう。ただ、本書の議論の強引さには好感を持てなかったとだけ、云っておこう。少なくとも、これが現在最良の「左翼」だとはとても思えない。

コモンウェルス(下) 〈帝国〉を超える革命論 (NHKブックス)

コモンウェルス(下) 〈帝国〉を超える革命論 (NHKブックス)

平野啓一郎『滴り落ちる時計たちの波紋』読了。著者については、学生の時に執筆した小説が芥川賞を受賞し、話題になったことを覚えている。しかし、知識人たちの反応は概して冷淡なものであり、自分も一読して、さほどのものとは思わなかった。けれども、最近著者の新書『私とは何か』を読んで感心した(参照)ので、ちょっと気になっていたのである。という感じで本書を読んでみたわけだが、これは面白かったですね。まず、端正な文体が好ましい。本書は「現代」を描いたとも云えるだろうし、作者もそのつもりだったのかも知れないが、とにかく文体ですよ。モノクロームの文体とも云え、一種の退屈さはあるが、これは古典の退屈さに似ていて、必ずしも悪くない。その退屈さに感心したと云ってもいいだろう。とはいえ、本短篇集で一番の力作である「最後の変身」は、カフカと並走しながら圧倒的に面白い。自意識でパンパンに膨れ上がった主人公という設定が古めかしいのは確かだが、こういう王道を扱って読ませるというのはさすがだ。これは、他著も読んでみたくなるのは必然だろう。
滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫)

滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫)