ポール・セルー『鉄道大バザール(下)』

晴。
早朝出勤。眠くて仕方がない。ずっと仕事。

ポール・セルー『鉄道大バザール(下)』読了。ユーラシア大陸一周(というのは正確ではないが)の鉄道旅も後半。前半では、アジアの物珍しさもあるのだろう、なかなか楽しげな鉄道旅行をやっているが、後半になると、様子が異なってくる。旅の疲れもあるだろうが、ビルマあたりから政治的にも複雑になってきて、筆致から軽快な調子がなくなっていく。しかし、ここからが本番とも云えて、自分はここらあたりからページを繰る手が止められなくなってきた。ベトナムアメリカとの戦争が終りかけていて、アメリカ人である著者は、複雑な感情を抱かずにはおれないようだ。けれども、著者はまだ若いのだが、さすがに作家で、陳腐な政治的意見などを吐こうとはしない。ただ、アメリカがベトナムに対し、毛ほどの印も付けられなかったのではないかというような感じは、うまく描いている。そして、ベトナムの美しさ。
 そして意外にも、本書のクライマックスは、どうやら日本かも知れない。しかし、七〇年代の日本のモーレツぶりがこれでもかと描写され、著者がだんだん鬱になっていく様子を読むと、当時の日本のダサさにこちらも気が滅入ってきて、やりきれないというか、哀しくすらなってくる。まあ、今の日本が当時とどれくらい違うのか、こちらにもよくわからないのではあるが。それにしても、ここまでのアジアと、日本の超特急「新幹線」との対比を読まされると、こちらも否応なしに愚かしい「日本特殊論」などを語りたくなってしまいかねない。正解も誤解も含め、ははあ、西洋人は日本をこう見てきたのだなということが、よくわかってしまう。京都を著者が気に入ってくれたのが、ちょっとホッとするくらいだ。
 最後はシベリア鉄道で、延々と退屈な風景の中に長く閉じ込められて、イライラし、疲れきってヨーロッパに帰ってくるところで〆である。いやあ、面白かった。上巻の感想にも書いたが、阿川弘之の訳文は素晴らしい。旅行記を、完全にこなれ切った日本語で読むことができる。

鉄道大バザール 下 (講談社文芸文庫)

鉄道大バザール 下 (講談社文芸文庫)


音楽を聴く。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第十三番K.333、幻想曲ハ短調 K.475(ピリス新盤)。