エリアフ・インバル指揮RSOFのマーラー全集

 僕がクラシック音楽を聴き始めたのは高校生のときで、もう二十年以上前のことであるが、その頃ちょうどマーラーがブームになっていた。毎月のように新しい録音のCDが出ていたように思う。うろ覚えだが、ショルティだのマゼールだの小沢だのシノーポリだのアバドだのカラヤンだのバーンスタインだのテンシュテットだの、選択肢はたくさんあった。
 で、その頃評判だったのに、エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団(RSOF)の録音があった。僕はそのコンビの、マーラー交響曲第五番と第六番のCDを買っていた。まだマーラーが分りかけといった状態だったが、それらのディスクはよく聴いたし、日本で評判になったので彼らは来日し、僕も名古屋での演奏会に行ったことがある。ディスクの印象と同じような演奏だったが、それはそれで実演で聴く楽しみはあった。(ちなみにその頃は、無謀にも、学生オケの演奏会でもよくマーラーをやっていた。)
 そんなこんなで今に至っているわけだが、最近ではマーラーは、シノーポリの全集盤を聴くのがほとんどである。最近完結したブーレーズ盤全集も持っているが、あまり聴いていないけれど、ちょっと疑問もある。インバルは最近、都響マーラーを再録音しているが、何となく旧盤が懐かしくて、RSOFとの全集のBOXセットを買ってみた。
 第五番と第六番は既聴なので、近頃は滅多に聴かない、第二番「復活」から聴いてみた。冒頭第一楽章から、聴き始めてすぐに、ああ、これはあっさりした演奏だなと思った。マーラーの粘っこい、糸をひくようなところはない。正直言って、これはミスマッチかなと、ちょっと失望しかけた。しかし、オーケストラはよく鳴っている。特に金管がすごい。そして、これは昔評判になったときから言われていたことだが、録音が超優秀である。再弱音から最強音まで、まったくクリアでかつ自然な音に録れているのがすごい。演奏も細部までくっきりと聞かせるし、各パートの調和もよく、音楽的な解釈もじつに中庸を極めている。だんだん奇妙な面白さに浸されてきた。
 この曲で音楽的価値が高いのは、第三楽章と第四楽章だと思うのだが、そしてここの部分がいいのだ。特に第三楽章、480小節で強奏が終り、501小節から第一ヴァイオリンが下降し始める部分に、思わず感銘を受ける。第三楽章が終って、アルトが《O Röschen roth!》と入るところの美しさ!
 延々三十分以上も、クライマックスの予定調和に向けて我慢させられる終楽章も、過不足ない演奏で好ましい。全体的に云ってこの演奏は、この曲に盛り上がりの感動を求める人には向かないかも知れないが、何か不思議な面白さがある。他の曲もぼちぼち聴こう。

マーラー:交響曲全集

マーラー:交響曲全集

 第四番も聴いてみる。何だ、名演ではないか。考えてみれば、この曲がインバルに合っているのは当然か。中身のぎっちり詰まった演奏だ。大局的に中庸な中で、細部がじつによく聞こえて、ところどころでアッと思う。録音のクリアさもあるが、マーラーの複雑なオーケストレーションを、ここまで自然に細部まで聞かせているのは、インバルだけかも知れない。例えばこの曲が終るところ、ちゃんとよく耳を澄ませていてくださいね。