若桑みどり『イメージの歴史』/ヤコヴ・M・ラブキン『イスラエルとは何か』

晴。酷暑。
若桑みどり『イメージの歴史』読了。著者のホームグラウンドは、ルネサンスの芸術史だろうが、著者はそれだけに留まらず、幅広い学識をもっておられる研究者である。本書も、西洋美術の全領域を対象にして、イメージの歴史という大きなテーマに挑んで確かな成果を挙げられた。とりわけ、全編に亙って、ジェンダー的な視点を強く打ち出しており、勉強になる。正直言って、自分の頭の古さを思い知らされた。著者は勤勉で、欧米の人文学の最良の成果(複数)をきちんと消化しておられる点、さすがである。なかなかこうはいかないのだ。
 本書は元は放送大学のテキストであり、個人的なことを云うと、十年あまり前に、自分はこの放送大学の講義を(もちろんビデオで)聴講していたことがある。拙いレポートも書いて、若桑先生に短いコメントを頂いたのが忘れられない。そのときの講義でも、最終章の現代日本の公共彫刻を、ジェンダー的な視点で批判されていた部分は、強烈に印象に残っている。これも個人的なことだが、今の自分の仕事場の近くの通りに、公共彫刻がかなりの数設置されていて、それらがすべて女性像なのである。これらを見ると、この講義のことがいつも想い出されてくるのだった。
 著者は西洋美術史家として相当の実力者であられたが、優秀であるがゆえに、日本人が西洋の人文学をやる意義に、年々悩んでおられたようである。その成果が、名著『クアトロ・ラガッツィ』である。まだまだ活躍して欲しかった学者で、その早世は、惜しみても余りあることであった。

イメージの歴史 (ちくま学芸文庫)

イメージの歴史 (ちくま学芸文庫)

ヤコヴ・M・ラブキン『イスラエルとは何か』読了。これはハードな新書だ。手軽なイスラエル史などと考えると間違う。本書はシオニズムに批判的な立場で、シオニズムの論理を哲学的・神学的に、徹底的に反駁しようとするものだ。明記はないが著者はユダヤ教徒であると思われ、ユダヤ教シオニズムと相容れないことを断言している。とにかく、イスラエル国家では、驚くべきことにユダヤ教徒は少数派であり、ユダヤ教を信じない国民が多数派なのである。本書を読んでわかるのは、シオニズムの起源というものが、相当に怪しいものだということだ。そしてその暴力主義は、ユダヤ教の伝統的な平和主義とは、ほとんど相容れないのである。現代の著名なラビたちも、シオニズムに否定的な人物が多い(というより、大多数だと思われる)。ここらあたりは、日本人にはなかなかわかりにくいところだ。イスラエルにおいては、宗教的雰囲気が乏しいようであるらしいのだから。却って、アラブ系ユダヤ教徒(!)の方が敬虔だというのだから、驚かされる。とにかく問題はこじれてしまっており、本書のような精緻な思考が求められるところなのだ。
イスラエルとは何か (平凡社新書)

イスラエルとは何か (平凡社新書)