山田無文&水上勉『末世を生きる』

曇。不穏な空だ。
 
晶文社から刊行されてきた吉本隆明全集が、第38巻[書簡Ⅱ・Ⅲ]をもって完結した。先日、小さな新聞広告で見かけた。11年の歳月をかけたという。
 わたしは本を買わなくなったのでこの全集も購入はしていないが、県図書館に入っているので、これまで借りてきて、それほどたくさんではないが、目を通した。正直、これまで単行本や文庫本で読んできた吉本さんのイメージが随分変わったと思う。吉本さんの「大文章」ももちろんすばらしいのだが、片々たる短い雑文なども読んでいくうちに、わたしは吉本さんが本当に好きになった。この人は、こんなに自己評価が低くて、たいへんな努力家でもあったのだと、とあまりうまくいえないのだが、そんなことを思った。
 人がどう思っているか知らないが、わたしは、吉本さんは天才的な資質をもった人だったと思う。それは、その「バランス感覚」のようなところにあらわれている。この世界全体の皮相なところから、根源的なところまで、思想、哲学、文学、経済学から、街歩き、サブカルまで。晩年は、サブカルまで取り込みながら、崩壊し大きく流動する世界の現実を解明しようとされていた。中沢さんのいうとおり、晩年の吉本さんの仕事を、我々はまだよく消化していないと思う。わたしごときには、まだまだ吉本さんがずっとずっと前方にいるとつくづく感じられる。例えば――「アフリカ的段階」の概念。
 まあ、でも、わたしごときのいうことではないと思う。ただ、歴史の闇に消滅していくモブ(=わたし)にだって、吉本さんは大いに参考になるのだ。考えてみれば、吉本さんには、モブみたいなところだって、あったような気がする。そんなところも、精神に溶かし込んでおられたな。
 
 
床屋。いつも散髪されながら目をつむってテレビのワイドショーを聞いているのであるが、東京からのは、高市政権の例の「外国人対策」についてだった。まあ、わたしごときにいうことはないが、ワイドショーを頭からバカにするわけじゃないけれど、内容がほぼないなくらいのことは思った。さて、氾濫する YouTube チャンネルとどっちがマシか、わたしは知らない。
 そのあとは、名古屋発のワイドショーだったが、東京のとのちがいが結構興味深かった。別に、直接それについてどうのこうのいうつもりはないが、それにしても、愛知とか岐阜とか、地味だよねーって思う。名古屋は日本でもっともおもしろ味のない都会(いちおう都会だよね?)といわれるし、さらに岐阜はといえば、全国でもっとも特徴のない、地味凡庸な県だろう。さらにさらに、わたしの住む各務原といったら。
 ま、そんなことはどうでもいいといえばいい。何の特徴もない場所で、無意味な生を送る、(わたしの)それだってまた、それなりの人の生き方ではあるまいか。
 

境川にかかる橋の上にて、10.23 に撮ったもの。
 
昼。
珈琲工房ひぐち北一色店。
 コーヒーを飲みながら何を読むかと思い、明日図書館へ返す鷲田清一『「待つ」ということ』(2006)を読み始める。
 待つ、か。待つとは未来に期待することであろうが、わたし個人はそういうことはあまりしないタイプのようである。わたしにとって、時間とは「現在」しかなく、過去は「現在の過去」、未来は「現在の未来」でしかないようだ。ゆえに、というのか、わたしは基本的に、現在において現在を受け入れるという、受動的人間である。わたしに、未来はほとんど存在しない、ともいえる。未来に期待はしない。
 しかし、まったく「待つ」ということがないかといえば、それはやはりある。例えば、このブログ記事が、誰かの手に渡ることを、待っている。よくいわれることであるが、わたしにとってもブログ記事とは、未来への一種の「投壜通信」だから。ほぼ唯一の、わたしの「未来」への働きかけである。
 だがそれは、じつはわたしが未熟だからであるが。ブログ記事など、本来なら、書き終えた瞬間に忘却しなければならないのだが、なかなかそうはできていない。
 あとは、わたしは「死」を待っている。それは、死にたいということでは、まったくない。わたしはいわゆるアンテ・フェストゥム型の人間であるから、悪い未来を漠然と待っている。未来には、悪いことしか起きない。(でも、「死」が悪いことなのか、よくわからないのだが。)死は水滴が大海に入ることであり、わたしにとってそれは「無」ではない。死には、なにかある。それで、じつになんとなくだが、死を待つ気持ちがあるのだと思う。それは期待ではないし、今日起きてほしいことでもないが。

 
図書館から借りてきた、山田無文水上勉『末世を生きる』(1996)読了。お二人の仰っているとおり、日本から仏教の真髄はほぼ消滅し、これもいわれているとおり、アメリカなどから仏教を学ぶ現状である。無分別知などあったものではない、末世も末世というところだ。我々ニセモノは、大いに猛省せねばならぬ。 
夜。
マムダニ氏がNY次期市長当確、 「音量を上げろ」とトランプ氏に NYは「移民の街」と強調(BBC) - YouTube