ユリウス・アザルというピアニストを聴いてみる / 田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』 / 「WHITE ALBUM2」(2013)を観る

曇。
エアコンの暖房をつけっぱなしで寝てしまったせいだろう、乾燥して喉がいがらっぽい。
 
NML で音楽を聴く。■スカルラッティソナタ K.466, 56, 238, 544, 87 で、ピアノはユリウス・アザル(NML)。27歳の新進ピアニストの録音(2023年)で、DG がもう青田買いしている。スカルラッティスクリャービンを混ぜこぜにした意欲的なアルバムだが、わたしはまず適当にスカルラッティだけピックアップして聴かせてもらった(ゴメンね)。一聴して独自のものがあるのは明らか、なるほど、才能といってもいいだろうが、これでずっとやっていけるかは、わたしごときにはまだわからない。なかなかおもしろい、とはいえる。

 
昼。
スクリャービンのピアノ・ソナタ第一番 op.6、前奏曲 op.11-20, 8-11, 11-21, 16-4, 11-14, 16-1, 11-6, 13-1 で、ピアノはユリウス・アザル(NML)。これでアルバム一枚をおおよそ聴き終えた。スクリャービンの preludes がよかったね。若い才能ってのはいいな。
 
 
第703回:「失われた30年」のアンハッピーセット〜自己責任、差別やヘイト、そして石丸・斎藤現象まで。の巻(雨宮処凛) | マガジン9
『そして私も19歳から24歳までのフリーター時代、何度も手首を切っている。一度などオーバードーズで救急車で運ばれ、胃洗浄を受けてもいる。フリーター生活の先が見えなすぎて貧乏すぎて、これから先の生き方がわからずに募るばかりだった自殺願望。だけど当時は、それらすべてが「自分の心の弱さの問題」だと思ってた。』
『この社会でうまく立ち回り、上手にサバイブしないとあっという間に自殺にまで追い込まれる──。そんな現実が間近にあった私にとって、小泉元首相の「自己責任」という言葉は、残酷な現実を言い当てるものであり、どこか腑に落ちた気分にもなったのだった。この地獄にふさわしい名前が与えられたような。それほどに、私の周りは死屍累々だった。』
『だけど、安定層や上の「階層」の人には私たちのいる地獄が全く見えていない。』
 
 
珈琲工房ひぐち北一色店。おいしいコーヒーを飲むとホッとする。
 図書館から借りてきた、田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』(旬報社2023)読了。副題「社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか」。とてもおもしろく、興味深い本だった。現代日本を知るためによい本で、最後の第五部「働き方はなぜ悪化したのか」が全体のよいまとめになっているから、ここだけでも読むとよいと思う。
 わたしは以前から、「失われた30年」という日本の没落の原因をときどき考えてきたのだが(わたしなどが考えてもムダであることはわかっているけれど)、我々日本人の大幅な「劣化」は否めないといい条、それだけでは納得できなかった。しかし本書を読んでみて、
「つまり一九九〇年代以降の平成日本が進めた自由化、それを通じたコスト削減・人件費削減政策は、働く人々を疲弊させ、社会のゆとりを奪い、日本経済の基礎力を削いだという意味で歴史的な失敗であった。」(p.313-314)
というのが、おおむね正しいんじゃないか、そんな風に感じた。つまり、労働環境を悪化させ、労働者から「搾取」し、弱い者から収奪する構造を作ったことが、日本の没落に繋がった、という考え方である。
 大きな問題点としてひとつ、現代日本では「正規雇用」と「非正規雇用」が区別され、現在では雇用者の四割が非正規雇用であり、その少なからずが低賃金、きつい(そして人によっては高度な内容の)労働、雇用の不安定を強いられても、それだけで生活している。これは、「同一労働同一賃金」の原則にも完全に背馳しており、搾取、まったくのアンフェアである。
 日本人の少なからずは「非正規雇用」をなくすなど、不可能だと思っているけれど、これほど一般化したのは現代日本に特殊な慣行であり、このようであるのがむしろおかしい。また日本でも、例えばスウェーデン系の企業「イケア(IKEA)」はパート制度を廃止し、「同一労働同一賃金」を日本で採用しているが、特に問題はないという(p.332)。日本人では、フェアな制度を扱えないというのなら、仕方がないわけであるが。
 また、ブラックな労働と低賃金を強いる職種・企業は、当然ながら、そもそも若い人たちが選ばなくなっている。本書によると、建設業、教師、運送業などは、その典型だという。それは業界もわきまえていて、みずから「改革」に舵を切らねばならなくなっているそうだ。介護職も、いずれそうなるだろう。
 我々は懲りずに、外国人労働者を搾取することもしてきたが、外国人も日本の条件の悪さを(当然ながら)知るようになり、日本が選ばれなくなっているという。むしろ韓国の人気が高まっているそうだ。
 本書のドイツとの比較も興味深い。どうして日本より人口の少ない、また労働時間もはるかに短いドイツが、GDP で日本を上回ったか、考えてみるのは啓発的である。
 人間らしい労働とは、何か?「非正規雇用」っていうと、昔の「パートのおばさん」とかを連想する人がいまだ多いような気がするが、それは実態に合わない。いまの非正規雇用者は、「家計の足し」ではなく、それのみで生活している人が増えた。また、仕事の内容もともすれば高度で、「正社員」とかわらぬ、昔ならば「正社員」がやっていたようなマネジメントなどの仕事も、任されたりする。つまり、「正規雇用」が「非正規」とちがうのは、転勤(という謎制度)を容認すること、残業代が支払われること、その二つにしかないところが少なくないのである。
 
帰りに肉屋。「家計の財布」を家に忘れていってしまったので、とりあえず自分の財布から出した。安いけれど、きれいな色の国産豚肉。
 

 
夜。
WHITE ALBUM2』(2013)第13話(最終話)まで観る。第12話までだったら予想どおりだったが、さらにあるとはね。雪菜(せつな)は悪役を演じて、しかも冬馬(とうま)も外国へ、壮絶バッドエンドですかー。三角関係の終わらせ方はむずかしいな、しかも三人は互いに最高の親友だし。
 しかし、めっちゃ観応えがあった、一話一話の重いこと重いこと。特に第11話、第12話、第13話はヘビー級で、しんどかった。ギャルゲー文化って、正直バカにしていなかったかといわれると軽く見てたといわざるを得ないが、これまでアニメ化されてきたものとか、本作も、脱帽します。まったく、たかがギャルゲーのくせに、たかがアニメのくせにな。はい、わたくしの幼稚確定。調べてみると、アニメは原作ゲームの序盤二割程度なんだな。どうりで、2期希望って声が見られるわけだ。原作はそんなに長大なのね。