飯田真、中井久夫『天才の精神病理』/赤攝也『集合論入門』

晴。
音楽を聴く。■ドビュッシー:チェロ・ソナタ他(ジャン=ギアン・ケラス、タロー)。普通の演奏。

Debussy, Poulenc: Queyras Tharaud violoncelle piano

Debussy, Poulenc: Queyras Tharaud violoncelle piano

■ペンデレツキ:交響曲第二番(ペンデレツキ、参照)。第一番よりはだいぶ聴きやすくなっている。ほぼ、伝統的な調性音楽に戻った印象。ショスタコーヴィチっぽいとも云えるか。まだ、完全にわかったとは云えないが。■シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第一番op.105(ゲザ・ホッス=レゴツキ、アルゲリッチ2002Live、参照)。幻想的で、なかなかいい。速めのテンポで、アルゲリッチは余裕綽々で音楽的なのであるが、ヴァイオリンはちょっと苦しそう。でも、弾き切っていい演奏になった。

図書館から借りてきた、飯田真と中井久夫との共著『天才の精神病理』読了。解説は養老孟司。本書は病跡学 pathography の書であり、対象は西洋の科学者たちである。自分は病跡学の本を読むのは初めてであるように思うが、偉人たちを「精神病者」扱いをするのに反発を抱くかと予想していたのに対し、実際はとても面白く読めた。対象者たちの心理面に、大きく踏み込んだ小伝集という印象を抱いた。対象になっているのは、ニュートンダーウィンフロイトウィトゲンシュタイン、ボーア、ウィーナーである。いずれも錚々たる顔ぶれであり、これが面白くない筈はない。本書では、科学者たちのタイプが、躁鬱型と分裂病型に大別されており、この区別は妥当であるように思われる。無から有を打ち立てる、如何にも天才的に見えるのは後者であり、しかし彼らは周囲の世界とはあまりうまくやっていけず、創造のあり方も、爆発的ではあるが、持続性には欠けるとされる。その学問は、第一原理からの演繹になりがちである。具体的には、本書ではニュートンウィトゲンシュタインなどであり、アインシュタインも明らかにそうであろう。他方、前者(躁鬱型)は、混沌の中に少しずつ秩序をもたらしていくようなやり方であり、その創造性は長く続くことが多い。ダーウィンフロイト、ボーアなどがこのタイプである。明らかな天才のようには見えないところもあるが、静かに大革命をもたらすことがあり得よう。
 このようなタイプ分けは比喩的なところもあるが、天才たちの激しい知的格闘は、現実的に病を呼び寄せるところもある。「創造の病」とは、よく云われるところである。しかしやはり、常識的には精神の病を簡単に「比喩」にするべきではないであろう。もとより、本書にはそうした安易なところはほとんど感じられない。本書はかなり以前の本であるが、一般人が今読んでも面白いところがたくさんある。類書のほとんどない時点で、大きな成果を上げたと云えるのではあるまいか。
天才の精神病理―科学的創造の秘密 (岩波現代文庫)

天才の精神病理―科学的創造の秘密 (岩波現代文庫)

赤攝也『集合論入門』にざっと目を通す。このところちょっと数学の本を読んでいなかったな。また読もう。しかし、集合論っていまいち興味を持てないのだなあ。大切なことはわかっているのだが。読んでいて、何だか数学者の自業自得(?)って感じがする。
集合論入門 (ちくま学芸文庫)

集合論入門 (ちくま学芸文庫)