岩波講座基礎数学「集合と位相1」第1章

岩波講座「基礎数学」を適当に読み散らしている。「集合と位相1」の第1章を読んだので、感想をば。
 集合と論理学がごたまぜになっている印象だ。目的は自然数の構成のようで、それに必要な道具を揃えているという感じである。さて、命題(1.1)(p.12)であるが、いきなりであってわかりにくいけれども、これがキーストーンになっている。すなわち、任意の命題P、Qに関して
   
なのであるが、これ、わかるだろうか(ちなみに記号¬は「否定」、記号∨は「または」の意味)。まず必要性を示そう。Pが成り立つとすれば、P⇒QよりQも成り立つので、¬P∨Qも成り立つ。また、Pが成り立たなければ、排中律より¬Pが成り立つので、これも¬P∨Qが成り立つ。これで必要性は云えた。次に十分性であるが、Pが成り立つとき、排中律より¬Pが成り立つことはないので、¬P∨QからQが成り立つことが云える。すなわちP⇒Qが成立し、十分性も云えた。証明終。
 これ、何の役に立つのかと思われるかも知れないが、かなり重要である。例えば、ある命題が成り立つとき、その「対偶」命題も成り立つが、このことが証明できる。すなわち、P⇒Qは、上の命題(1.1)より¬P∨Qと同値であるが、交換律などにより、これは¬P∨Q ⇔ Q∨¬P ⇔ ¬¬Q∨¬Pとなり、さらにもう一度命題(1.1)より、これは¬Q⇒¬Pと同値。すなわち
   
となって、確かに命題と対偶命題は同値となるのだ。
 また、帰謬法が、
   P⇒Q∧¬Qが成り立てば¬Pが成り立つ
と書けるのもおもしろい。P⇒Q∧¬Qの対偶を取ると¬(Q∧¬Q)⇒¬Pとなるが、¬(Q∧¬Q)⇔ ¬Q∨¬¬Q ⇔ ¬Q∨Qであり(途中でド・モルガンの法則を使った)、排中律によって¬Q∨Qは成立するから、¬Pは云えることになる。


 このあとは自然数の構成になるのだが、自分はこういうのは面倒なだけのような気もする。これは、集合 a に対し、集合 a∪{a} を a の「後継ぎ」と呼んで、a+ と表すところが肝になっている。これに関し、空集合から始めてペアノの公理を使うのである。その過程で、集合の合併や共通部分まで論理的に構成しているが、直感的に理解していることに付け加えるところはない(※注意)。
 自然数の構成に関し、「無限系譜」「無限樹」という概念を使うのは、これはよく使われる仕方なのか、自分は知らない。個人的には初めて見た。集合 x が無限系譜であるとは、
   
ということ。この(x が無限系譜であるという)命題をM(x)と書くと、集合 a(空集合ではない)が無限樹であるとは、
   
ということ。


 後の方をぺらぺら見ていると、面倒くさそうな本だなあと思う。適当に目を通してお仕舞いにしそうだ。


※注意 普通の意味での「共通部分」は取り立てて問題ないが、不思議な定義がある(p.22)。a を集合の集合として、b∈a に関し、
   
と置いて、これを a の元の「共通部分」といい、∩a と書くのである。これは、
   
が成り立つことより、もし c∈a ならば なので、すなわち集合 a の元 b の取り方によらない。特に a={b,c} ならば、a の元の共通部分は b∩c となる。また、a(空集合ではない)の任意の元 y に対し、∩a ⊂ y となる。
 これは何となく奇妙な定義に思われるかも知れないが、定義どおりに操作すると、a の元たち(これらも集合である)の極普通の共通部分を与える。命題を言葉で書けば、 は、b の元で a のすべての元(これも集合である)に含まれる元の全体(から成る b の部分集合)である。具体例を挙げれば、a={m,n,b}, m={0,1,2}, n={1,2,3}, b={1,2,3,4} とすれば、∩a={1,2} である。これは b の代わりに m,n を取ってやっても変わらない。普通に共通部分を与えるのである。


 ついでだから、補題1.1も示しておこう。a,b を無限樹とする。
(1)∩a は無限系譜である。
 なぜなら、まず、 より、a のどの元も空集合を含むから、 である。また、命題 を命題P(x)とすると、x の任意の元 y についてP(x) が成り立つのだから、x⊃∩a より、∩a の任意の元 y についてもP(∩a) が成り立つ。証明終。
(2)a⊂b ならば ∩a ⊃ ∩b。
 なぜなら、b=a∪c(ただし a∩c は空集合)と置けるので、∩b=(∩a)∩(∩c) ⊂ ∩a。証明終。


集合と位相 (岩波基礎数学選書)

集合と位相 (岩波基礎数学選書)