小沼丹『懐中時計』

晴。
小沼丹『懐中時計』読了。本書の最後にある「著者から読者へ」の中に、「小説は昔から書いているが、昔は面白い話を作ることに興味があった。それがどう云うものか話を作ることに興味を失って、変な云い方だが、作らないことに興味を持つようになった」とあるが、小沼丹というと、この「作らない」、淡々とした、エッセーか小説かわからないような文章の人というイメージである。しかし、本書ではこの「作った」類の短編がいくつかあって、これはこれでとても面白かった。自分は通俗たるも、お話が好きなのだと思う。それも、最後の一行がピタリと決った短編は好みで、例えばモーパッサンモーム三島由紀夫あたりなど、どこか自分の気質に合うところがあるのだろう。この手の短編でも、小沼丹はやはり、ゆるゆる坦々と話を進めていくのは変わらないが、これで上手く決まるというのが面白い。もちろん、私小説的なものも良いわけだが。

懐中時計 (講談社文芸文庫)

懐中時計 (講談社文芸文庫)