榧根勇『地下水と地形の科学』/モーム『昔も今も』

晴。
大垣。車中BGMは、ブラームスのピアノ四重奏曲第二番(リヒテルボロディン SQ)。坂本龍一
武満徹を聴く。曲は、フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム、トゥイル・バイ・トワイライト、弦楽のためのレクイエム。演奏はネクサス、カール・セント・クレア指揮、パシフィック交響楽団。ライナーノーツの筆者はピーター・グリッツという人で、まあ日本人ではないだろう。どうも外国人にとっては、ここでは例えば「禅」という語は使われていないけれど、武満に神秘的なものを感じがちなのかなあと思う。

武満徹 : フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム

武満徹 : フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム


榧根勇『地下水と地形の科学』読了。個人的なことを云うが、昔から何となく水というのものが気になってきたので、本書はなかなか面白かった。地下水の学問というのは、自分の未踏地だった。いまちょっと調子が悪くて詳述できないが、こうした分野というのはまだまだ一般向けの書物が少ないから、学術文庫にはさらに期待したい。
地下水と地形の科学 水文学入門 (講談社学術文庫)

地下水と地形の科学 水文学入門 (講談社学術文庫)

サマセット・モーム『昔も今も』読了。訳者解説によれば、批評家エドマンド・ウィルソンは本書を酷評したそうであるが、彼のごときハイ・ブラウには、本書はあまりにも通俗的だと思われたのかも知れない。確かにわからないでもない、何故って、本書はあまりにも面白いから。自分は高尚な人間でも何でもないので、この「下品な」小説の魅力にやられてしまった。じつは、訳者も書いている、開高健の絶賛は知っていて、開高ファンとしては前から読みたいと思っていたのだ。だから、何故か二年間も積ん読にしておいたのをふと読んでみて、底から楽しい思いをした。主人公はあの『君主論』の著者である、ニッコロ・マキアヴェリであり、もう一人主人公格として、かのチェーザレ・ボルジアが配されている、傑作歴史小説である。ルネサンス期の分裂したイタリアを巡る、マキアヴェリチェーザレの丁丁発止と、途轍もない女好きに描かれたマキアヴェリの情事とが絡みあって、息をつく暇もない。だいたいモーム自身が、人生の酸いも甘いも味わい尽くした、煮ても焼いても食えない男であるから、その彼が、権力と色事を、腕によりをかけて料理してみせているのだ。そして笑い! 何度もきりきり舞いさせられるマキアヴェリだが、イケメンならずも才気煥発、何とも魅力的な男に描かれているではないか。まさしく大人のための「お話」。面白い小説を読みたい向きは、是非どうぞ。
 しかし、本書は「通俗小説」らしいが、最後のチェーザレマキアヴェリの長い対話には、自分はおもわず粛然としてしまった。腹の探り合いまで楽しんでしまう二人なのに、ここでは最高度に頭の回る人間の底にある真摯さのようなものすら、垣間見えているように思う。
昔も今も (ちくま文庫)

昔も今も (ちくま文庫)