ディラック『量子力学』メモ(3)

前回
前に、一次演算子の「固有値問題」として物理的な量が決定されると述べたが、これも先走って云っておけば、そのとき、力学変数はじつは実数でなければならない。なので、実数の力学変数に対応する、一次演算子の条件を調べておこう。

 ベクトルの関係を「共役虚」と呼んでいたが、一次演算子をαとすると、<P|αに共役虚なものを
     
とする。この「共役複素」に似たを、(ディラックの用語で)αの「アジョイント」と呼ぶ。αのアジョイントのアジョイントは、常にαに等しい。すなわち(これも共役複素に似て)
     
である。よって、一次演算子のアジョイントのことを、「共役複素一次演算子」と呼ぶこともある。一次演算子α,βがあるとき、常に
     
である。また、|A><B|は前にも述べた通り、一次演算子であるが、これのアジョイントは
     
となる。
 さて、一次演算子αが実数の力学変数に対応している場合、αのアジョイントはα自身に等しくなる。すなわち
     
で、このときαは「セルフ・アジョイント」であるという。これは普通の教科書なら、αは「エルミート」演算子である、と云われるところであるが、ディラックはこの呼び方を採らないので、注意が必要である。普通の教科書のように書いておくと、
     
より、(<A|を<P|αに置き換えて、これの共役虚も考えると)常に
     
だから、αのエルミート性の条件は
     
となる。
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