曇。
高橋源一郎『ニッポンの小説』読了。誰もが馬鹿にする高橋源一郎さんだが、僕は彼の書くものが好きだ。文庫本が出たら、たいていは買う(単行本で買わなくて御免なさい)。本当におもしろいから。
というような素朴な賛辞では、源一郎さんには相応しくないのかも知れない。源一郎さんは、今でも(もはや死語だが)「前衛」だから。この言葉はいま発するとそれだけで時代遅れ、過去の遺物と見做されてしまうけれど、別に構わない。でも、そんなこともどうでもいい。
周知の通り、源一郎さんは「文学」や「小説」ということに拘る。そこが古いとされる所以である。しかし、源一郎さんのいう「小説」は、我々の精神の奥深いところに関係したものである。現代に生きている以上、誰もそこから免れることはできない。例えば、小説は散文で書く。しかしその散文というものは、ひとつの「制度」(という言葉を源一郎さんが使っているわけではないが)なのだ。現代の我々の生は、「散文」に規定されているのだ。「文学」や「小説」が時代遅れになったと云っても、我々がそこから自由になったわけではない。ただそのことを、隠蔽しているだけのことである。
そう考えると、源一郎さんが詩に拘泥するのもわかるような気がする。詩というのはわからなくてもいい、というよりは、わからない方がいいらしい。ただそれは、デタラメに書けばいいと云うわけでもない。何か、散文から自由を奪回せねばならぬものである。ああ、もっと詩を読もう。これでは自分は貧しすぎる。
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