タキトゥス『同時代史』

晴。
タキトゥス『同時代史』読了。國原吉之助訳。題名はやはり元の『歴史(ヒストリアエ)』の方がよかったのではないかとか、原音表記に徹していて、ユダヤは「ユダエア」、アルプスは「アルペス」などというのは、ちょっとやりすぎなのではとか、まあそんなことは思うのだが、碩学が熟慮して決められたことでもあり、それでよいのだろう。なんと云っても、タキトゥスの主著のひとつを、碩学の手に成る翻訳で読めるのだから、それ以上いうことはない。まことにありがたいことである。原文を読めないので何とも仕様がないが*1、羅和訳というのは、これまで読んできたものから判断すると、達意の日本語にするのは相当にむずかしいのだと推測する。そういう観点からしても、当り前だが、本書は立派なものだ。ラテン文学はもっともっと翻訳されて欲しいし、文庫化してもらえるとさらにありがたい。
 ところで、タキトゥスってローマの貴族でも何でもなくて、ガリアの属州(具体的には、今の南仏プロヴァンス)の生まれだったとは。それがローマを代表する歴史家になったというのだから、ローマは奥が深い。ローマは今のアメリカ合州国のようなもので、外部からの人材をどんどん受け入れる、人種の坩堝だったわけだ。だからこそ、長持ちしたのであろう。軍隊も次第に属州の出身者で構成されるようになるのは、本書を読んでいてもよくわかる。

同時代史 (ちくま学芸文庫)

同時代史 (ちくま学芸文庫)

*1:これでも大学では、ラテン語の単位を取っているのですけど、なさけない有様で…