玄侑宗久『龍の棲む家』/福岡伸一『世界は分けてもわからない』

晴。
玄侑宗久『龍の棲む家』読了。老いということが近くなった今、このように痴呆というテーマを細やかな筆致で描いた本書は、多くの人に救いを与えるだろう。著者は、いつも大切なことを主題にしている作家だ。これは、ただ僧侶だからといって、簡単に出来るようなことではない。それから、これもちゃんと云っておかないといけないと思うが、本書も小説としてもいいものだ。暗いテーマを扱いながら、登場人物に希望があるし、それがまた、自然に書かれている。著者は自分にとって、大切な作家のひとりになってきたようだ。

龍の棲む家 (文春文庫)

龍の棲む家 (文春文庫)

福岡伸一『世界は分けてもわからない』読了。読んでいて、科学本にしてはどうも文学的すぎるような気がしていたのだが、これは「文学」としてしまってもいいのかも知れない。細胞の癌化の原因を探ろうとした研究の、事実捏造を描いた読み物のスリリングさは、どうして文学でないと云えよう。結局、研究は捏造され、主役を演じた若き研究者は学問的生命を断たれたのだが、そのグランド・デザイン(細胞の癌化は、酵素のリン酸化カスケードによる)はまったく正しかったというのは、何ということであろうか。科学を行なうのは人間だ。科学が人間的な営みでないわけが、ないのである。
世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)