玄侑宗久『死んだらどうなるの?』/中沢新一『古代から来た未来人 折口信夫』/『吉本隆明全集6 1959-1961』

曇。
カラスどもがウチのおいしい蜜柑の味を覚え、何十羽もきてカアカアとうるさい。ひどい食い散らかしようである。遠からず食べつくされてしまうであろう。まったく始末に終えない。

玄侑宗久『死んだらどうなるの?』読了。これはいい本である。が、かしこい人たちには侮られるだろうな。まあ、そういう人たちはどうしようもないが。それにしても、初期玄侑宗久の物理学好きは何だろう。波と粒子の相補性に留まらず、デビッド・ボームの暗在系やEPR相関ですよ。じつに興味深い。玄侑さんはちょっと胡散臭いのが最高だね。僧侶の本道を歩んでおられると思う。
 自分も煩悩に塗れているだけではなくて、光の方も見ないとね。

死んだらどうなるの? (ちくまプリマー新書)

死んだらどうなるの? (ちくまプリマー新書)

中沢新一『古代から来た未来人 折口信夫』再読。折口信夫についての本である。自分の知っている世界はまだまだあまりにも浅いことを痛感する。中沢さんを手引きに、もっと折口信夫の世界に入っていけるといいのだが。本書は第六章が特にすごい。中沢さんは折口が神道において見ていたものをつかみ出し、構造化さえしようとしている。これから何度も立ち返るべき内容であろう。しかし本書もまた、無視されてしまうのであろうな。
古代から来た未来人 折口信夫 (ちくまプリマー新書)

古代から来た未来人 折口信夫 (ちくまプリマー新書)

図書館から借りてきた、『吉本隆明全集6 1959-1961』読了。読み始めたら止まらなくなり、仕事場でも空き時間に読み、帰ってきてアルコールが入ったあとも読みで、相当な量を読み切ってしまった。政治的文章と詩についての考察が入り混じった構成だが、文芸批評家としての吉本さんの手並みは承知していたものの、政治的文章が予想を遥かに超えておもしろかった。いや、「おもしろかった」などと言っていいのかわからないが、とにかく文学として読んでしまった。罵倒も含む論難の嵐であるが、これも予想とはちがって、柔軟なものを感じたのが意外だった。殆どが言っていることは至極まともだと感じたわけで、しかしそれはまあいい。これらを読んでいると、自分の精神年齢の幼さがわかってしまってどうしようもなかった。まあ、今の時代、幼いのは自分だけではないが、そんなことは自慢になるような話ではない。下らない感想ですが。
 政治的文章がおもしろかったと言ったが、その価値がはっきりしているのは、やはり文学に関する仕事であろう。吉本さんはまず第一に詩人なのだなということが、はっきりとわかった。批評ももちろん素晴らしいものであるが、詩人ということから養分を吸い上げているのである。恐らく、思想家としてもそうなのであろう。そこが、吉本さんの仕事を不朽のものにした要因なのではないかと思われる。それにしても、よくもこれだけ書いたものだ。この巻だけでもすごい分量である。全集をすべて読むとなったら、どうなるのだろう。何とか図書館に頼って、できるだけ読めたらなあと思っている。願わくば全集が途切れず完結しますように。
吉本隆明全集〈6〉 1959-1961

吉本隆明全集〈6〉 1959-1961