ディラック『量子力学』メモ(1)

著名なディラックの教科書『量子力学』を、大学に入りたての学生のように読んでみるつもりである。そのための、ほんのメモを記すことにする。飽くまでも自分勝手なメモであり、これを読んでも量子力学がわかるようにはならない。また、この一回で止めるかも知れないし、続くのかも知れない。他人には読む意味がないかも。

量子力学 原書第4版

量子力学 原書第4版

 まず、ディラックの「ブラ・ケット記法」だ。ディラックは、周知のごとく、最初から波動関数を使わない。では、ディラックは、物理的内容をどう捉えるのか。まず必要なのは「重ね合わせの原理」である。

この原理によると、これらの状態の間には特別の関係があって、その結果、体系がはっきりと一つの状態にあるばあい、いつでも、それが、部分的に、ほかの二つの状態あるいはもっと多くの状態にあるものとみなしてもよい、と仮定せねばならない。つまりもともとの状態は、新しい二つまたはそれ以上の状態をある種のやり方で重ね合わせた結果と見なさねばならない。但しこの重ね合わせの仕方は古典的な考え方では想像のつかぬものである。どんな状態をとっても、それを二つまたはそれ以上の他の状態の重ね合わせの結果と考えることができ、しかも実にその重ね合わせの仕方は無数にたくさんあるのである。逆にどんな二つまたはそれ以上の状態をとっても、それらを重ね合わせると一つの新しい状態が生ずるのである。(p.15)

この「重ね合わせの原理」が、量子力学古典力学の一番の違いであり、量子力学を特徴づける、というわけだ。そして、それは数学的には、「ベクトル」で表される。(これは勿論、何かから演繹されるものではない。)

重ね合わせの手続きはある種の加え算の手続きであって、いくつかの状態を何か適当なやり方で加え合わせれば新しい状態が生ずることを意味している。従って状態に結びつけられる数学的な量というものは、それらを加え合わせることができて、その結果は同じ種類に属する別の量になるような種類のものでなければならない。このような量の内で最もわかりやすいものはベクトルである。(p.19)

これがすなわち、「ケット・ベクトル」というわけだ。このようにディラックは、きわめて抽象的な前提から入っている。
 状態の重ね合わせは、ケット・ベクトルの一次結合で表される。例えば、状態Rが、状態Aと状態Bの重ね合わせで作られる場合、
     c_{1$\1}|A>+c_{1$\2}|B>=|R>
と表される。(係数c_{1$\1},\;c_{1$\2}複素数。)
 また、或るケット・ベクトルに勝手な複素数 c を掛けたものは、もとのケット・ベクトルと同じ状態を表す。これは、同じ状態を重ね合わせても、もとの状態と変らないということを意味する。

ブラ・ベクトル

ブラ・ベクトルはケット・ベクトルと掛け合わせて、「ブラケット」と呼ばれるスカラー積を成す。ブラケット
     [tex:]
スカラー積なのだから、当然ただの数(複素数)である。ブラだけ、あるいはケットだけならば、それはもちろんベクトルである。気を付けねばならないのは、ブラとケットが対応しているとき、ケット
     c|A>
に対応しているブラは、
     [tex:\overline{c}=\overline{}]
の関係がある。ゆえに、
     [tex:]
は実数であり、ブラまたはケットが零でなければ、これは必ず正の値を取るものとする。
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