玄侑宗久『竹林精舎』

曇。
 

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第十四番 op.27-2 で、ピアノはアナトリー・ヴェデルニコフヴェデルニコフの「月光ソナタ」の録音があるとは。しかしあいかわらず聴かれていないな、ヴェデルニコフは。大袈裟でなく人類の至宝なのに。これこそ「世界遺産」であろう。


ブラームスの「四つのピアノ曲」op.119 で、ピアノはジュリアス・カッチェン。カッチェンのブラームスはかなり好きだな。ブラームス最晩年のピアノ曲集がいろんなピアニストによりもっと演奏されることを望む。


チャイコフスキーの弦楽セレナーデ op.48 で、指揮は小澤征爾サイトウ・キネン・オーケストラ。まさかこの曲に感動させられるとは。小澤征爾、侮れないな。小澤はカラヤンにもバースタインにもかわいがられた指揮者であるが、そういえばカラヤンのこの曲の演奏は絶品だったっけ。まあこの曲は、チャイコフスキーの中では好きな曲です。ちなみに天皇皇后両陛下が臨席されておられるね。しかしまだ小澤征爾、このときは若いな。

なんだかポピュラー曲ばかり聴いたな。

昼過ぎ、カルコス。何か買いたい気分で行ったのだが岩波文庫一冊とおそろしくさみしかったので、ひさしぶりに BOOK OFF に寄る。いつもはほぼ文庫108円しか買わないのだが、これも吉田修一一冊とおそろしくさみしかったので、文庫半額からも幾らか買った。堀江敏幸川上未映子神林長平村上春樹綿矢りさ等、いまでは旬でない人たちばかりになったが。ひさしぶりに「ブ」の棚を見ていると、いろいろと思うところがあった。BGM としてきわめて幼稚くさい歌詞のラップがかかっていて閉口する。こちらも幼稚なので耐え難いものを感じる。「ちきりん」とか「はあちゅう」とかネットの有名人の文庫本もあったが、買うには至らなかった。フィギュアとかガチャガチャの重複ものとか売ってくれというアナウンスが流れていた。


図書館から借りてきた、玄侑宗久『竹林精舎』読了。久方ぶりに読む、玄侑さんの小説。道尾秀介の『ソロモンの犬』の続編を書きたいという動機で書かれたもので、意外にも一種の青春小説だった。若き主人公は東日本大震災津波で両親を亡くし、縁あってお坊さんになる。そして彼が福島の廃寺(?)の新しい住職になる顛末と、かつての同級生との恋愛を絡めたという小説だ。なに、坊主が恋愛? いやいや、それがおもしろいのですよ、是非読んで頂きたい。ネタバレしておくと本書はハッピーエンドだから大丈夫。なんというか主人公の坊主がウブすぎて身悶えさせられるが、ほんといいヤツだ。本書では原発事故との対峙も重要な部分を担っているが、それは玄侑師が福島の寺の住職であることからも必然という感じがした。
 それにしても、何でもないような小説ながら本書は自分の深部をゆさぶった。そして自分の抱えている虚無の巨大さも浮き彫りにしてくれた。玄侑師はやるべきことをやってきたし、いまもやるべきことを自然体でやっているおちゃめな大僧侶で、現代日本にこういう禅僧がどれだけいるのか、自分にはまったくわからない。かかるものとして、自分の知る数少ない僧である。僕はこれまでもブログで玄侑師を読んだ方がいいですよと何度も書いてきたが、まあたぶん無駄だった。でも、同じことを繰り返したいと思う。玄侑師は読んだ方がいいです。まったく、もののわかるひとがいなくなってしまった。そういう時代である。あまりにも未熟者の言で、仮に玄侑師が聞けば愚か者と腹を抱えて笑うであろうや。

竹林精舎

竹林精舎

 

 

ベートーヴェンの「32の変奏曲」ハ短調 WoO.80 で、ピアノはアナトリー・ヴェデルニコフ。すさまじい演奏。ベートーヴェンは即興演奏が得意であったが、それを聴いた人はおしなべて出版された曲よりも即興演奏の方がすごかったと言っているらしい。それがどういうことなのかはわからないが、この曲などはそのベートーヴェンの即興演奏に近いのではないかという感じがする。短いドラマティックな主題を、湧き上がるように変奏していくのを聴くと、そんな空想に囚われるのだ。そのせいかどうか知らないが、この曲はベートーヴェンの生前から人気があったのに、ベートーヴェンはこれに作品番号を与えていない(WoO というのは「作品番号のない」という意味である)。もちろんいまでもよく演奏される名曲である。(AM00:00)


シベリウスのヴァイオリン協奏曲 op.47 で、ヴァイオリンはマキシム・ヴェンゲーロフ、指揮はダニエル・バレンボイムシカゴ交響楽団ヴェンゲーロフってたぶんよく知られているヴァイオリニストなのでしょうね。恥ずかしながらよく知りませんでしたが、こんなによく鳴っているヴァイオリンを聴いたのはひさしぶりな気がします。最初の一音から惹きつけられ、ほとんどエロティックな魅力すらあります。この曲はヴァイオリンの美感を堪能するには最高のポピュラー曲で、バレンボイム指揮の CSO といい、ゴージャス極まりないですね。クラシック音楽で 300万回以上の再生回数というのは、めったにある動画ではありません。しかし、なんというか、僕にはこの曲はたんなるポピュラー曲ではないのです。勝手な聴き方でしょうけれど、終楽章など、僕はこんなに悲しくて深い(陳腐な形容詞ですが)曲はないと思っているのですが、ヴェンゲーロフといいバレンボイムといい、圧倒的なゴージャスさで攻めてくるばかりです。天邪鬼でごめんなさい。僕の求めているのはこれではないのです。例えばフェラス、例えばチョン・キョンファ、例えば庄司紗矢香あたりがすごいと思っています。まあ、ふつうはポピュラー曲なのでしょうけれどね。(AM00:49)


ブラームスの「三つの間奏曲」op.117 で、ピアノはラドゥ・ルプー。