種村季弘対談集『異界幻想』

強い雨

大垣。
ミスタードーナツ大垣ショップ。てりやきチキンパイ+ブレンドコーヒー393円。ミスドはレトロな雰囲気を出そうとしてなのだろうが、わたしが10代の頃に流行った洋楽(っていまいうのかしら)を流しているのが笑う。そんな歳なんですねえ。当時はふつうに洋楽も聴いていました。
 種村季弘対談集の続き。高山宏氏との対談がいろいろとおもしろかった。高山氏はしきりに種村さんと澁澤龍彦との比較みたいな話を(当人の前で)持ち出して、暗に澁澤を貶めたいという意図なのだが、それがなかなか興味深い。「蓄積と解体」ということでいえば、高山氏には解体がないし、解体というものの全然わからない人だな。一方、澁澤龍彦には膨大な蓄積もあるけれど、やはり解体と観念化の人だったと思う。というのは、わたしはこのところ散々解体に勤しんでいたので、よくわかるわけだ。さて、当の種村さんは博覧強記、蓄積の人ではあるが、底の方でしっかり「解体」もある人で、だからおもしろいのだなといまのわたしは思う。というか、種村さんには、ユングの「集合的無意識」みたいな観念の暗い複合体が思い出されるところがあるのではないか。専門的にはドイツ語(ユングはスイスのドイツ語圏の人だった)の人だしな。
 高山氏の照射するところの種村さんは、また種村さんの一面にすぎない。

 
図書館から借りてきた、種村季弘対談集『異界幻想』読了。種村さんには近代を後ろ向きに超えて、神話の世界にまで踏み込んでいるところがあるな。川上弘美さんや川村二郎氏との対談とかで、はっきりとわかる。近代から出られない川村氏などは、圧倒されているな。本書中に、中国の神話世界が殷から周に至るところで崩壊し、その後は壊れて脈絡のつかない神話の断片だけが残ったという種村さんの話が何度か出てくるが、とてもおもしろい表現だ。世界を覆い、繋ぎ留めていた古代の神話的全体性の崩壊。そういう観念が、種村さんの心のかなり深いところにあるのではないか。現在はもはや神話的断片まで資本主義化=商品化されていて、表層に浮上し、恐ろしく貧しいことになっているわけだが、種村さんにそれを浮き彫りにされた感じがする。

上野千鶴子『女ぎらい ニッポンのミソジニー』を読み始める。第八章まで読んだ。あんまりおもしろいので、ここまで読んできて抱いた妄想を簡潔に記しておこう。わたしは本書をここまで読んで、ここに記されているクズ男性はわたしだと思わずにはいられなかった。男の抱く性的妄想、これは(近代の)男性にとって避けられないものであるように思われる。そのような性的妄想なしには、男性性におけるセクシュアリティは発動しないのではないか。いまでは歳をとっておだやかになったが、わたしの若い頃の性欲は、自分でときにコントロールできなくなりそうになるくらいのもので、それと性的妄想が結び付いて、現実の女性に投影されていたものだと思う。そこには、女性をひとりの他者として認めるという側面が、確かに希薄であった、そういう場合が確実にあった。これでは、なんともクズという他ない。自分としてはそればかりでもない、女性を人と認めていた側面もあったとは思うのだが、それも結局自分で言うことではない。いまから思えば幸か不幸か、わたしは結婚というものをすることなく人生の半ば(といわれる年齢)を過ぎたが、それはまあよかったのかも知れない。
 でも、自分はどうしたらよかったのだろう。性的妄想、想像力、そういうものから、いまのわたしも自由になれてはいない筈である。そういうものを女性に投影せず、彼女を(性的)他者として扱うこと。それは、この歳になってもむずかしいように思えるが、まあ、これも幸か不幸か、いまのわたしには(現実の)女性と(性的に)関わるという選択肢はあまりなさそうだ。ま、下らないラブコメアニメでも見ながら朽ち果てていけば、よい気もする。

女性を性的存在として見ないとすれば、そんなに問題はないと思うのだけれどね(LGBT忘れんなとツッコミが入りそう)。わたしが若い頃に「男女間に友情は成立するか」みたいな幼稚くさい議論があったけれど、人間同士にセクシュアリティ抜きの関係が成立し得るのは自明であるといまならわかる。ただ、そこから糸が縺れる可能性もあるわけで、さてそうなると、男性にとって性的妄想の投影の問題というのはやはり繰り返すわけだ。

しかし、と上のごとく記したあと、少し考えて思う。男なんて所詮、「とにかく女とヤりたい、穴が開いていれば何だっていい」という、身も蓋もなくいえばその程度の下らない生き物なのではないか、という気もする。もちろん立派な男性も世の中にはたくさんいられようが、概してそんなものなのではないか。少なくとも、初発的力動性としてはそれだろう。それ以上を男性に求める女性が、どうかしているのではないか、といったらやっぱりこいつはクズですね。いや、「尊重すべき性的他者」とかから、えらく低次元なところに陥ったか笑。こういうことを書くからいけないんだな、わたしは。ふりだしに戻る。