曇。
池内紀『闘う文豪とナチス・ドイツ』読了。わたしが仮にナチス政権下のドイツに住んでいたとして、いまでは「絶対悪」とされるナチスに反抗できたか、それは実際に生きてみないとわからない。軍国主義下の日本においてでも同じことである。わたしは、かつて軍国少年であった吉本さんを愛読してきたし、その吉本さんが戦後、その軍国少年たる過去を踏まえ、(贖罪とは反対の意味で)左翼としてできるだけのことをしてきたことを疑っていない。いや、いまの時代であっても同じことである。わたしは現代において、いかに生きるのか。片々たる教条主義的サヨクとして、それなりの生き方ができるのだろうか。マンは、ナチス政権下のドイツで生きていたわけではなかった。別にだからどうというわけではないが。
闘う文豪とナチス・ドイツ - トーマス・マンの亡命日記 (中公新書)
- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/08/18
- メディア: 新書
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pha 『持たない幸福論』読了。pha さんのことは、ネットをやる若い人にならかなり知られているのではないか。一方、知らない人は全然知らないだろう。京大卒ながら、かつては「日本一のニート」(?)などと呼ばれていた人で、「だるい」が口癖である。一般企業で働いていたこともあったが、それが苦痛で仕方がなく、定職をやめてシェアハウスを運営など、ふらふらしながら生きてきたといってよいのか。わたしの好きな若い(わたしよりということであるが)人のひとりである。著者は本書にオリジナリティはないというが、自分の体験と自分の言葉でわかりやすく書かれた、稀に見る「哲学書」といってよいだろう。BOOK OFF で100円で買ってきた本であるが、感銘を受けた。まあ、面倒なことを書くつもりはないが、それにしても、pha さんのだらしない(?)生き方が、わたしにはなぜか修行僧の生活にダブって見えてくるのである。生きることは目的よりも過程であり、少なくして満足し、ゆるく人と接し、お金に振り回されず、自分の好きなように時間を使う。それはお題目ではなく pha さんが日々ふつうに実践していることであり、そのためのコツを丁寧に解説までしてくれる。本書にはわたしの驚かされた言葉がいくらも鏤めてあって、例えば若い頃に読書と料理を身に着けておくのがおすすめというのにはウームと唸ってしまった。わたしは本は多少読むが、一人暮らしで料理をものにしなかったのは考えが浅かったと思う。料理はもちろん生きるのにとても役に立つし、一生モノの奥の深さがあるものね。また、大量のお金というものは固有のスピードを持っていて、それはふつうの人の自然な生活のペースより速い(p.167)という言葉には驚いた。それゆえ、たくさんのお金と関わると人は急かされて生きているように思ってしまうというのだが、これはわたしの出会った現代認識の中でも最高のそれのひとつであると思われる。pha さんにはじつはお金持ちの知人も多いようで、実感がハンパない。これを見ても、本書の奥深さは明らかだと思っている。そしてわたしが本書から学ぶべきは、pha さんにはつまるところ「他人との接触を断ってはいけない」という認識があるところだ。pha さんには人付き合いが苦手な側面があるけれども、そこをしっかり工夫して生きてきておられる。わたしは、そういうことをしてこなかったなと思うのである。
持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない (幻冬舎文庫)
- 作者: pha
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/08/04
- メディア: 文庫
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