ヤニス・バルファキス『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。』 / プログラミングでテトリス

深夜起床。

ヤニス・バルファキス『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。』読了。まず本訳書の名前は下らなく、いくらなんでも長すぎるが、英語版の原題は「わたしの娘への経済の話」くらいが近い。世界的なベストセラーになっているらしい。最近邦訳が発売された、『黒い匣』への予習として読んだ。ちなみに『黒い匣』は既に確保しているが、恐ろしくも大部な本であるし、中身もしんどいことはわかっているので、果たしてわたしに読めるのだろうかと懸念している。
 いきなり本書の邦題をくさしたが、題名の語っていることはあながち大袈裟でもないくらいであった。本書は経済学者の書いた優れた経済学啓蒙本ではあるのだが、わたしのような素人にもある意味かなりの「異端」本であることはわかった。いや、自分が専門家でないので、ここでどう書いてよいかまったく困る。本書はまさにとんでもなくわかりやすいのであるが、また容易に読みこなせる本ではない、とでもいうか。まず、数式もグラフもないが、説明にごまかしはない。それどころか、ふつうの経済本、いや、現在の教科書すらごまかして隠しがち(?)な本質的なことが書かれている、めずらしい本である。そのことは、読んでみてわかった。本書は人類の農耕の発明から始まり、1万2000年前のメソポタミアにおける「信用」の誕生の話がそれに続く。じつはわたしは、それこそが「経済」のキモだということに、本書を読むまで気づいていなかったのである(いっておくが、これはふつうの経済学の教科書にきちんと書いてあることだ)。まさに節穴のような目とはわたしのそれのようなものである(が、そのような読書体験は本書において何箇所もあった)。信用とか「思い込み」(例えば、皆んなが破綻すると思えば実際に破綻する)という不確定なものが経済活動の中核にあるということ、それが経済というものを厄介にしているのだ。それは、経済学の理論がどんな精緻なものになっても、変わることはない。それはむしろ、経済学のことを何も知らない人間の方が却って、当り前に気づいていることかも知れない。
 そして、経済は「政治」と切っても切れない関係があること。経済は政治と絶対に切り離せないのである。これもまた、経済学の教科書を読んでいるだけではわかりにくいことだ。さらにこれもまた、素人でもわかっていることといえばそうである。しかしこれは、きちんと勉強した方がよいことで、政治と経済がどう関わっているかということは、決して自明のことではない。おそらく、本書がいちばんすごいのはここかも知れない。ただ、それを要約する力はわたしにはないので、本書を読んでいただくしかない(マネーサプライについて注意して読むとよいと思う)。著者の結論(というか信念)だけ書いておくと、健全な民主制が不可欠であるということであり、それはじつは「経済活動の全面化」(あるいは本書の言い方だと、「存在すべての商品化」)と対立するというのがおもしろい。この観点も決して自明なものでないことは強調しておこう。これはまた、「経済を金持ちの思い通りにさせてはいけない」という著者のイデオロギーに直結しており、その「経済学的根拠」もきちんと述べられている。それからほぼ必然的に出てくるのが、「誰でも経済を理解する必要がある」(それも本書レヴェルで!)という著者の信念だ。つまり経済学はその意味で数学や物理学とはちがうということになるが、しかしわたしは思うけれど、そこまで万人が経済を理解するのは、端的にいって無理であろう。そこがわたしの悲観主義である。
 また、本書にはビットコインや AI の普及した世の中についての鋭い、本質的な議論もなされているが、これもまた我々がこれから必ず考えなければならないことだ。著者はそんなことは書いていないが、わたし個人には事態はかなり悲観的に思えるけれども、これは若い人ならばそうは思わないかも知れない。わたしは、「人間らしさ」の意味するところが、わたしと若い人たちではまったく変ってきてしまっているのを既に感じる。だからこれは、わたしが死んでしまえば何の問題もなくなることであろう。また、この世界は確実に破綻するから、著者の考えでいくと、そうなれば膨大な犠牲を払ったのち、世界はまたマシな方へ変わるともいえようか*1。その程度の希望はもってもよいであろう。わたしはそれには賛同する。
 結論。素人で経済というものが気になる人は読んできっと大きく得るところがある本である。わたしはそのことを確信している。

黒い匣 (はこ)  密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層

黒い匣 (はこ) 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層

ついでだから書いておくと、我々素人が現代経済について考えるに際し、マネーサプライについて基本的に理解しておくのは本質的である。例えばアベノミクスについていろいろ言われているが、マネーサプライの理解だけで結構いける。そして経済と政治の関係も。

県図書館。道が混んでいた。

今日はずっと Gem "Ruby2D" でテトリスを作っていた。完全オリジナル実装。
20190428021409
コードはこれ。
Ruby2D を使ったテトリス · GitHub
ひとまず完了したら真夜中だなあ。(AM02:16)

*1:あるいは、人間は膨大な犠牲を払わないとものごとを変えられない。あるいは、東日本大震災を見ても、多大な犠牲を払っても本質的に何も変わらない。それが日本全体のカタストロフィでなかったからだ。そして、いまや日本は沈没しかかっているが、さて事態はいつ変わるのであろうか。でもね、こう誰もが「日本終了」って言うようになって紋切り型になってきたので、わたしのようなへそ曲がりはちょっとウンザリしますね。「日本終了」したからって、何だという気もする。