長谷川四郎『シベリヤ物語』 / アリストテレス『詩学』

深夜起床。

長谷川四郎の続きを読む。シベリアでの捕虜と労働体験から抽出された小説たちを読んでいるが、不思議な魅力がある。淡々としてリアリズムで、わたしの好きな類の小説だ。労働のつらさはもちろん大いにあった筈だが、そんな(当り前の)ことはしばしばオミットされているので、童話あるいは寓話でも読んでいるような、敢ていえば明るいような印象すらある。作中の「私」というのは作者自身と思えるように書かれているが、そう思って大過はないだろう。そういう風に読むと、長谷川四郎さんは(変な話だが)わたしよりもだいぶ人間の出来がよく、わたしには謎めいたところもある。なかなか、自分よりも魂の高級な人間の考えていることは、わかりにくい感じがする。この人は、強制労働に従事していても人生はすばらしいものだという考えを否定しなかったようで、驚かされる。わたしなどはいまのような安逸な生活に慣れていても、なかなか人生はすばらしいと断言するのはためらわれるようだ。まあしかし、そういうことは却って自分ではよくわからないことかも知れない。

図書館から借りてきた、長谷川四郎『シベリヤ物語』読了。おもしろかったが、あまりこちたい感想は書きたくないので、上に書いた蛇足でもうたくさんである。天沢退二郎氏による文庫解説もマヌケたもので、なかなかに長谷川四郎さんを語るのはむずかしい。この人は、我々読者に胸の内を悟られるような迂闊な真似はしていないのだ。他にももう少し読んでみたいのだが、図書館にどれくらいあるものかな。県図書館の書庫の全集に頼るのはちょっと大変だしな。

シベリヤ物語 講談社文芸文庫

シベリヤ物語 講談社文芸文庫

 
NML で音楽を聴く。■ブラームス交響曲第一番 op.68 で、指揮はハンス・ロスバウト、バーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団NMLCD)。この曲は長い上に重苦しい印象であまり聴く気がしないのだが、それでも聴いてみればそんなこともない、(当り前であるが)名曲である。まあ、ロスバウトの演奏がよいせいもあるだろう。じつに古典的なブラームスになっている。■シェーンベルクの三つのピアノ曲 op.11 で、ピアノは廣田洋子(NMLCD)。「現代音楽します」という気負いが感じられない上に、各曲の性格があざやかに弾き分けられている。第一曲はブラームスの後に聴いてまったく違和感のない音楽であり、また第三曲は鮮烈だ。本当に、シェーンベルクは古典になったのだなあという感を深くする。■シェーンベルクピアノ曲 op.33a, op.33b で、ピアノは廣田洋子(NMLCD)。あざやかな演奏。よくわかる。■ヒンデミットの弦楽三重奏曲第二番で、演奏はドイツ弦楽三重奏団(NMLCD)。
 
朝飯にパンを食べたあと寝てしまう。

曇。
ミスタードーナツ イオンモール各務原ショップ。もっちりフルーツスティック シナモン+ブレンドコーヒー。家族の分のドーナツも買う。さて、小野光子さんという方による武満徹の評伝を読み始める。大部なものなのでおもしろそうでなかったらそのまま図書館に返そうと思っていたのだが、読み始めたら一気に惹き込まれた。(しかし読み終えられるのだろうか。)詳細な研究でもあるのだが、平易でよい文章で、しかも叙述がいきいきとしているので、著者がたぶん意図していないような部分に感動したり。武満が本格的に作曲家として立つ、つまりいまに残っているような曲を作曲し始めたあたりまで読んだが、それにしても周囲の人々の錚錚たる顔ぶれなのは、いったい何なんだと思ってしまう。どうでもいいことだが、自分の若い頃を思い出してちょっと悲しくなってしまった。まあしかし、武満とわたしでは話にもならん。それはともかく、武満がずっと、音楽は悲しみに近い感覚だと思っていたこととか、決定的な時期にフランク(「前奏曲、コラールとフーガ」!)やメシアン(当時日本ではほとんど知られていなかった)に影響を受けたりとか、なるほどと共感するところが多い。若くしてすばらしい女性(のちに伴侶になる)と深い交流があったり、清瀬保ニや早坂文雄瀧口修造などに師事(というか既に盟友扱いだった)したり、これが才能というものなのだなあとつくづく思う。いや、よい本に出会った感じ。

本書でさらりと書いてあるが、武満はどうも独特のオーラのある人(という書き方はされていないが)だったらしい。演奏会の人混みのなかでも武満がいるとすぐわかるというような。


■バッハの平均律クラヴィーア曲集第一巻 ~ 第一番 BWV846 - 第十二番 BWV857 で、ピアノは園田高弘NML)。何故自分にとって園田高弘は特別なピアニストなのか。自分が大したことないから、園田ごときに感動するのか。それともそうではないのか。どうでもいいといえばどうでもいい、ただ聴けばいいのかも知れないが、どうも腑に落ちないのだ。皆んな、園田をどんな風に聴いているのだろう。それがよくわからない。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集

バッハ:平均律クラヴィーア曲集

シューベルトのピアノ・ソナタ第十九番 D958 で、ピアノはクラウディオ・アラウNML)。どうもアラウのシューベルトを完全に誤解していたような。こんなすごい射程の演奏だとはまったく予想していなかった。この演奏にたどり着くまで、探しに探しましたよ。ほぼ全体を記憶しているポリーニのそれを選んだら負け(?)だと思っていたが、アラウ盤があってよかった。
Schubert: Works for Piano

Schubert: Works for Piano

 

アリストテレス詩学』読了。三浦洋訳。訳者解説が 150ページ以上もある気合の入ったものだが、あまりにも詳細に渡りかつ専門的なので、面倒になって途中で読むのを止めてしまった。すみません。本文は曲がりなりにも読みました。

詩学 (光文社古典新訳文庫)

詩学 (光文社古典新訳文庫)