2018年 ナクソス・ミュージック・ライブラリ まとめ

自分にとって今年の音楽というと、ゆたさんに勧められて、クラシック音楽のストリーミング配信サービスである「ナクソス・ミュージック・ライブラリ」に入会したのがとても大きかったです。(ゆたさん、ありがとうございます!)月 1850円でクラシック音楽の膨大なアーカイブを聴き放題というサービスで、もはやこれなくしては自分の生活は考えられないほどのヘビーユーザーになってしまいました。

ということで、日記とは別エントリを立てて、今年 NML で聴いた音源について簡単にまとめておきたいと思います。長くてすみません。以下、順不同です。

ボロディン四重奏団によるショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全集の新録音

Shostakovich: The Complete String Quartets - Piano Quintet

Shostakovich: The Complete String Quartets - Piano Quintet

http://ml.naxos.jp/album/00028948341672
今年いちばん印象に残ったのはこれでしょうか。ボロディン四重奏団は過去にショスタコーヴィチの全集を録音していて、それはすでにスタンダードな古典的音源になっているのですが、これは新メンバーによる新録音です。

いうもまでもなくこの十五曲は、ベートーヴェンの十六曲と共にこのジャンルを代表する曲集である。ボロディン四重奏団による旧全集は歴史的名盤の評価が定着しているもので、初めてこの曲集を聴かれる方にはまずはそちらをおすすめしたいところだが、2011年以来のメンバーによるこの全集もまた価値の高いものであるといえると思う。この曲集が好きな方には聴いて損はないといいたい。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/11/30/090906

とても聴きごたえのある全集でした。僕はショスタコーヴィチが好きなのですね。ショスタコーヴィチ全体主義国家のイデオロギーの下で音楽を書いていたので、室内楽にいちばんその本心が込められていると思っています。

野平一郎のモーツァルト

モーツァルト:ピアノソナタ

モーツァルト:ピアノソナタ

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7523
野平一郎 ピアノ

野平一郎 ピアノ

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7598
野平一郎水戸芸術館モーツァルト:ピアノソナタ全集2

野平一郎水戸芸術館モーツァルト:ピアノソナタ全集2

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7626
野平一郎 モーツアルトピアノソナタ全集4

野平一郎 モーツアルトピアノソナタ全集4

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7659
野平一郎 水戸芸術館モーツアルトライヴシリーズ 5

野平一郎 水戸芸術館モーツアルトライヴシリーズ 5

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7666
NML では、野平一郎と園田高弘という日本人ピアニストを「発見」いたしました。まずは野平さんです。最初のうち、どうも気になるものを感じて、「よくわからないのだけれど、野平さんいいのじゃないかな」なんてのを連発しているのですが、そのうち

いや、これ、すばらしいでしょう。僕はモーツァルトのピアノ・ソナタの中では(第八番は別格として)この第一番がいちばん好きなのだが、まさにこれといいたい仕上がり。よく知らないのだけれど、野平さんってもっと聴かれていいんじゃない?

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/08/04/090403

なんて、なっています。で、「理想的な演奏に近い」とかになっていくわけですね。野平さんはベートーヴェンも一枚聴いています。

ベートーヴェン:作品集(8)

ベートーヴェン:作品集(8)

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7431
「アパッショナータ・ソナタ」の録音では

カッコよすぎて死亡。これが日本人ピアニストの「アパッショナータ」だ、ザマーミロって感じ。いや、野平一郎とか言っているのは自分だけな気がするが、そんなことはいいのだ。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/09/13/100302

とか、興奮しています(笑)。ちょっと天才的なピアニストで、こんなピアニストが日本にいたのですね。

園田高弘

園田高弘の「発見」は自分には大きなことでした。園田高弘(1928-2004)はよく「日本を代表するピアニスト」といわれますが、いったいどれくらいの人が聴いているものでしょうか。名のみでほとんど聴かれていないと思います。けれども NML には園田が自主録音を入れたレーベルが参加していて、かなりの量を聴くことができます。楷書体の、才能ある、正統派のすばらしいピアニストです。自分は特にその柔らかい芯のある音が好きです。これからも園田の録音は少しづつ聴いていくでしょう。ここでは特にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の録音を挙げておきます。

http://ml.naxos.jp/album/HTCA-1010

自分はこういう演奏に出会うために音楽を聴いているのだと言ってもよい。園田のピアノは、味わい深い中身の詰まった音と、スケールの大きさ、奇を衒わないオーソドックスな解釈が特徴的である。特にかなしみに浸されたような澄明な音の魅力は強調しておこう。この人もまた二十世紀の大ピアニストのひとりだったのだと納得される。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/09/09/070914

その他、園田のアルバムは以下を聴きました。たくさん聴いたものですね。
ハイドン/モーツァルト/ベートーヴェン:ピアノ作品集(園田高弘) - HTCA-3001-03 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
J.S. バッハ:イタリア協奏曲/半音階的幻想曲とフーガ BWV 903/トッカータ BWV 911 (バッハ・アルバム 1)(園田高弘) - HTCA-1008 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
J.S. バッハ:6つのパルティータ(園田高弘) - HTCA-2003-04 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 -第32番(園田高弘) - HTCA-1012 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
シューマン:ピアノ・ソナタ第1番/幻想小曲集(園田高弘) - HTCA-1031 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第15番「田園」/エロイカ変奏曲/6つの変奏曲 ヘ長調(園田高弘) - HTCA-1009 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 - 第7番/変奏曲集/ポロネーズ Op. 89 (園田高弘) - HTCA-1019 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番, 第4番(園田高弘/九州交響楽団/大山平一郎) - HTCA-1026 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー
ショパン:バラード第1番 - 第4番/即興曲第1番 - 第3番/幻想即興曲(園田高弘) - HTCA-1001 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー

チョン・ミョンフンマーラー

Mahler: Symphony No 9

Mahler: Symphony No 9

http://ml.naxos.jp/album/00028948114689
実力者チョン・ミョンフンマーラーは第九番と第五番を聴きましたが、見事なものでした。

チョン・ミョンフンマーラーは第五番を聴いて度肝を抜かれたことがあるが、この第九番も期待に違わぬすばらしい出来である。…ここでもソウル・フィルはすばらしく美しく、また恐らく録音もよい。マーラーにぴったりの残響だと思う。チョン・ミョンフンはいうまでもない実力者。このマーラーは例えばアバド晩年の命を削ったようなものではないが、過不足ない、精緻で美しいマーラーであり、いまでも大量に出るマーラーの新譜の中でも、これほどのものは滅多にないと確信している。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/11/12/051343

トーマス・ラルヒャー

Madhares (Ocrd)

Madhares (Ocrd)

  • アーティスト: Thomas Larcher,Thomas Larcher,Till Fellner,Kim Kashkaschian,Mko,d.R. Davies
  • 出版社/メーカー: Ecm Records
  • 発売日: 2010/06/08
  • メディア: CD
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http://ml.naxos.jp/album/00028947636519
Thomas Larcher: Naunz

Thomas Larcher: Naunz

http://ml.naxos.jp/album/00028946171820
現代音楽はそれほど聴いているわけではありませんが、ECM レーベルということでたまたま聴いたトーマス・ラルヒャー(1963-)が気に入りました。まさにモダニズムで、鮮烈です。
 それで思い出したのですが、ECM レーベル(コアなファンの少なくない個性的なレーベルです)では、ルネサンス期のベルナルド・ピサーノ(1490-1548)と、現代音楽のロジャー・マーシュ(1954-)の合唱曲を合わせたアルバムも印象的でした。ピサーノはそのテクストがペトラルカの「カンツォニエーレ」、マーシュはダンテ・アリギエーリの「神曲」からという取り合わせです。ヒリヤード・アンサンブルがいつもながら美しい。
Il Cor Tristo

Il Cor Tristo

http://ml.naxos.jp/album/00028948106387
なお、ECM レーベルのものでは他にアルヴォ・ペルト(1935-)なども印象的でした。

他の日本人演奏家たち

NML では日本人演奏家の実力の高さを知りました。また、自分が日本人であるからでしょうか、やはり感覚的な好ましさもありますし、それに日本人演奏家は個性という点では他の国の演奏家たちほどはっきりしないものの、己を出すよりはむしろまず音楽のことを考えるという印象も抜きがたくあります。それもまたわたしには好ましい。

クァルテット・エクセルシオ ベートーヴェン「ラズモフスキー」全3曲

クァルテット・エクセルシオ ベートーヴェン「ラズモフスキー」全3曲

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7807-08
クァルテット・エクセルシオは実力者たちです。すばらしいベートーヴェン。また、最近聴いた、ブラームスシューマンピアノ五重奏曲カップリングしたアルバムもよかった。
岡田美和 バッハフランス組曲 全曲

岡田美和 バッハフランス組曲 全曲

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7652
そんなことをいったら叱られるかも知れませんが、岡田美和というピアニストはそれほど華々しい存在とは思えません。しかしこのバッハのフランス組曲全曲は簡素でじつに好ましく、自分としてはめずらしいことながら何度も聴き返しました。こういう演奏で聴きたかったのです。
Bach: Complete Works for Lute

Bach: Complete Works for Lute

http://ml.naxos.jp/album/8.573936-37
恥を書きますが、僕はバッハのリュート組曲を全部聴いたのはこれが初めてです。何という好ましい! 今村泰典のバロックリュートの魅力に参りました。
モーツァルト:フルート四重奏曲全集

モーツァルト:フルート四重奏曲全集

http://ml.naxos.jp/album/MM1199
モーツァルトのフルート四重奏曲って、まさに日本人のためにあるような曲集じゃないですか。フルートは工藤重典。
バッハ:フルート・ソナタ全集 (2CD)

バッハ:フルート・ソナタ全集 (2CD)

http://ml.naxos.jp/album/WAONCD-020-021
バッハのフルート・ソナタ全曲で、これも日本人に合っている。フルートは福永吉宏。
阿部裕之 ラヴェル・ピアノ・ソロ作品全集

阿部裕之 ラヴェル・ピアノ・ソロ作品全集

http://ml.naxos.jp/album/WWCC-7853-55
これは忘れられない名演。これを聴く限りでは、阿部裕之は世界的に見ても現在最高のラヴェル弾きといってよいと思う。確か、阿部はラヴェルの孫弟子に当たるそうです。

ラヴェルの演奏史とでもいうものがあるとすれば、それに特筆すべき名演。この曲(「鏡」)がラヴェルの最高傑作のひとつであることを確信させる。特に第三曲「海原の小舟」の幻想的な美しさは譬えようもない。演奏者が日本人であり、このディスクがマイナーレーベルから出ているせいで知られないということがもしあるならば、あまりにも惜しい。大袈裟なことはあまり言いたくないが、演奏芸術として最高級のレヴェルに属すると思う。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/08/01/092903

Queen Elisabeth Competition Violin 1980

Queen Elisabeth Competition Violin 1980

http://ml.naxos.jp/album/MU020
堀米ゆず子が優勝した、1980年のエリザベート王妃国際音楽コンクールの(堀米の)演奏の記録。若き堀米ゆず子のとんでもなさを聴け。ただし、オケはへなちょこです。
Virtuoso Piano Works

Virtuoso Piano Works

http://ml.naxos.jp/album/Castigo02420
杉本恭子というピアニストはネットにほとんど何の情報もないのだが、聴いてびっくり。

検索していてこのアルバムを見つけたのだが、収録曲からしてどうしても聴きたくなっちゃうではないですか。ものすごく意欲的な選曲である。いやあ、あれよあれよという間にアルバム全部を聴いてしまいましたよ。一言でいうと、ハードボイルド! 技術はものすごく高くて、「ペトルーシュカからの3楽章」を完璧に弾きこなしているが、それだけではない。日本人にはめずらしく明晰さがあり、構築性がすばらしい。そしてスケールの大きいこと。音も魅力的。変な褒め方だが、ドイツ・グラモフォンと契約してもおかしくないですよ。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/05/27/075741

しかし、誰も何もいっていないのだ…。

ちょっと気になったアルバム

コルンゴルト:ピアノ三重奏曲

コルンゴルト:ピアノ三重奏曲

http://ml.naxos.jp/album/00028943407229
コルンゴルトとツェムリンスキーのピアノ三重奏曲カップリングするという、シブい一枚。

http://ml.naxos.jp/album/00028948177752
ブリテンのオーケストラ付き歌曲は名曲ぞろいである。ここでは見事な「イリュミナシオン」と「ノクターン」の演奏が聴けます。あとは「セレナード」がカップリングされていれば最高だったのに!
他にブリテンの歌曲では、「ミケランジェロの7つのソネット/ジョン・ダンの神聖なソネット」も聴きました。
Reich: Sextet/Clapping Music/M

Reich: Sextet/Clapping Music/M

http://ml.naxos.jp/album/LSO5073D
ライヒはカッコいい。
Lutoslawski: Complete Piano Music

Lutoslawski: Complete Piano Music

http://ml.naxos.jp/album/GP768
ルトスワフスキのピアノ・ソナタは、きらめくような美しい曲。
Goldberg Variations

Goldberg Variations

http://ml.naxos.jp/album/MIR048D
シュ・シャオメイも NML で「発見」したピアニスト。特にバッハの演奏で評価されているようです。ここでは「ゴルトベルク変奏曲」の旧録音を挙げておきます。

名演たち

R.シュトラウス:メタモルフォーゼン、傷病兵の仕事場から

R.シュトラウス:メタモルフォーゼン、傷病兵の仕事場から

http://ml.naxos.jp/album/00028942016026
リヒャルト・シュトラウスの「メタモルフォーゼン(23の独奏弦楽器のための習作)」のコクの深い演奏。アンドレ・プレヴィン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ

バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ

http://ml.naxos.jp/album/00028948350537
カルミニョーラによる、技術も音楽も文句のつけようのないバッハの無伴奏
シューベルト:弦楽五重奏曲

シューベルト:弦楽五重奏曲

http://ml.naxos.jp/album/00028943507127
わたしの大好きなシューマンピアノ五重奏曲。模範的な演奏。http://ml.naxos.jp/album/00028948304448
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はチョン・キョンファに合わないかと思ったら…

冒頭の管楽器の導入がとてつもなく美しく、これが全体の基調を決めてしまったようだ。このシンプルで幸福感に満ちた曲は、ピアニストであるアルゲリッチと共にもっともシャーマニスティックな演奏家であるチョン・キョンファには合わないかとも思われたのだが、まったくの杞憂であった。確かにチョン・キョンファにしてはじっくりとおとなしく弾かれているが、どこまで到達しているのかわからないその広大な射程はそのままである。終楽章では、音楽のあまりの美しさに感動して、恥ずかしながら少し泣けてしまったほどだ。パートナーであるコンドラシン指揮のウィーン・フィルもまた主役であろう。最高の名演だと思う。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/11/24/091303

なお、CD はオトクっぽいものを挙げておきました。

http://ml.naxos.jp/album/00028948238057
ブログエントリには「クソマジメの小澤征爾、すばらしい…」って書いてあります(笑)。

http://ml.naxos.jp/album/5099991871152
わたしの偏愛するブラームスの二曲のピアノ協奏曲で、コヴァセヴィチの真価を知りました。深さをもった、男性的な(男っぽい?)ピアニストです。本当にカッコいい。アルゲリッチが惚れたのもわかる。
バルトーク:管弦楽のための協奏曲/弦、打、チェレスタのための音楽

バルトーク:管弦楽のための協奏曲/弦、打、チェレスタのための音楽

http://ml.naxos.jp/album/00028947824725
日本人のクラシック音楽好きというととりあえず小澤征爾はくさしておけという感じだが、僕は尊敬しています。こんなバルトーク、いったい他の誰にできるというのか。
Claudio Abbado: The Symphony Edition

Claudio Abbado: The Symphony Edition

http://ml.naxos.jp/album/00028947916987
亡くなったアバドによる、ベートーヴェンの第三番、いわゆる「エロイカ交響曲」。

アバドらしく自然体かつオーソドックスで、まあベートーヴェンなのだからもっと大見得を切ってもいいとは思うけれど、最高のクオリティであると思う。この曲はベートーヴェンがのちのちまで誇りにしていた傑作であり、彼の五本の指に入る代表作である。クラシック音楽を聴くのに仮に目標などというものがあるとすれば、この曲を自分なりに把握するのはその目標のひとつであるかも知れない。別に「人類の至宝」と言ったって、おかしくないのではないか。

http://obelisk2.hatenablog.com/entry/2018/05/24/085604

最後に

五月にナクソス・ミュージック・ライブラリに入会して(日記)、じつによく聴いたものだな。来年もいろいろ聴けるとよいと思っています。クラシック音楽好きにはこたえられない優れたサービス。勧めて下すったゆたさんには再度の感謝を。来年の皆様のよきミュージック・ライフを祈念しております。