フアン・ルルフォ『燃える平原』

雨。
早起きしすぎて二度寝したら寝すぎた。あらもう十時。

NML で音楽を聴く。■バッハのトッカータ ト短調 BWV915、ト長調 BWV916 で、ピアノは近藤伸子(NMLCD)。■ショパンのピアノ・ソナタ第三番 op.58、リストのハンガリー狂詩曲第二番で、ピアノは藤田真央(NML)。藤田は第27回クララ・ハスキル国際ピアノコンクールで第一位を獲った若きピアニストである。弱冠19歳。名前が真央だけどまだかわいい男の子だ。屈折したところのない素直な音楽性が第一印象。技術は大変に高い。中身が非常に薄味で、このままだとキーシンのように中身の乏しい人気ピアニストになるのではないかという予感がある。それも音楽家としてひとつの行き方だろう。あとで残りの曲も聴きたい。NML では他のすべてのアルバムも聴けるようだ。

モーツァルトのピアノ・ソナタ第十八番 K.576、ショパンのバラード第一番op.23、ノクターン第二十番 op.posth 他で、ピアノは藤田真央(NML)。客観的に判断すれば、すばらしい演奏たちではないか。自分の心がまるで動かないのが不思議なほどである。あるいは若くてきらびやかな才能に嫉妬しているのでもあろうか(そうは思いたくないところである)。クララ・ハスキル一位もまったく驚くべきでない。将来が楽しみなピアニストである。それにしても、日本人ピアニストではこうしたショウ・マン的な人はこれまで少なかったから、ついにこういうピアニストが出てきたかと感慨深いものがある。きっと人気が出ますよ、この子は。■ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第七番 op.10-3 で、ピアノはヴィルヘルム・ケンプNMLCD)。■プーランクのヴァイオリン・ソナタで、ヴァイオリンはヨゼフ・スーク、ピアノはヤン・パネンカ(NMLCD)。誰の言葉だったか忘れたが(コクトー?)、澁澤龍彦が引用していた「軽さのエレガンス」という表現があって、プーランクを聴くとよくこの言葉が思い出される。それはフランス的エスプリの精華であって、しかし決して深さの欠如を意味するものではない。あからさまに深さを提示しないだけである。プーランクは洒落ていて、モダンで、カッコいいのだ。ところで「軽さのエレガンス」の文学者になるというのはなかなか容易でなくて、日本の文学者では、堀辰雄堀口大學くらいしか自分には思い出せない。もちろん、何といっても澁澤龍彦自身がもっとも完璧なそれであったわけだが。日本の文学者(だけに限らないだろうが)には、レトリックというものがうまく使えないのだ。自分はただのふつうの人だけれど、やっぱり「軽さのエレガンス」ってのはむずかしいなと思う。若い頃の中沢さんはかなりそれだった。たぶんいまでも可能なのだろうけれど、さすがにもうそういう文章は書かなくなってしまいましたね、中沢さんも。まあそういう時代でないからな。

フアン・ルルフォ『燃える平原』読了。杉山晃訳。短篇集。何とも説明のしようのない小説たちだな。メキシコの土着の世界。貧しく野蛮で、殺し殺され、生と死が隣り合っている。荒涼たる内面世界で、生きる意味などまったくない、いや「生きる意味」などという概念が脳裏に浮かぶこともないような、一切苦であり、無情の世界。人間が生きるということはそういうことであり、その意味では本書の世界と我々の世界は同じである。しかし、果たしてこれが世界文学の傑作なのであろうか? このように救いのない世界が? いや、これこそがやはり人間の本性なのであろう。フアン・ルルフォの代表作である『ペドロ・パラモ』も既に岩波文庫に入っているそうで、自分はまったく気が付かなかった。もしや購入済かもと思って探してみたが、もっていないようである。これはスーザン・ソンタグが「二十世紀の世界文学の最高峰」と評しているそうで、ソンタグにそこまで言われたら読んでみたくなってしまうではないか。今度本屋へ行ったときに探してみることにしよう。

 

NML で音楽を聴く。■ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第六番 op.10-2、三善晃のピアノ・ソナタで、ピアノは藤田真央(NML)。藤田真央のデヴュー盤。三善晃がめっちゃおもしろかった。これで15歳か。とんでもないな。もっと日本の現代曲を演るといいね。聴いてみたいな。

ラフマニノフの「楽興の時」op.16 で、ピアノは藤田真央(NML)。最初に断っておくが、こういう演奏がいいという人がいるのはわかる。でも、自分にはこれはないでしょという感じ。ビタースウィートロリポップじゃないけれど、全然ビターでないラフマニノフじゃん。だからスウィートでもなし。まあ、15歳にはまだまだそれは無理なのはわからないでもない。真央君は、身を焦がす恋愛とかも、したことないのじゃない? やなおっさんでごめんなさいね。でも、そんなんじゃラフマニノフは無理だよ。三善晃くらいでやめておこうよ。