小平邦彦『解析入門』を拾い読み

雨。
寝坊。寝る前に小平先生を読んでいたせいだろう、すごくおもしろい夢をたくさん見た。魂が軽くなっていた感じ。目覚めたときも最近になく気分爽快である。
昼から仕事。

小平先生の『解析入門』の冒頭部分がおもしろくて仕方がない。正直言って僕は小平先生のこの本を読んで、初めて実数というものがわかった気がした。先日も書いたが、小平先生の立場は、有理数を既知とし、有理数の切断として「実数」を定義するものである。そこでは実数の大小、和や差、積商まで新たに構成されるものとなっている。そしてその手法はきわめて「自然」に感じられる。こんなやり方は迂遠すぎると思われるかも知れないが、読んでみると意外とすっきりしているものだ。これはもうひとつの有名な教科書である杉浦光夫の『解析入門』と比べるとちがいがはっきりする。後者はこちらも論理的には厳密であり、そして「実数の連続性」(正確には「連続の公理」)は公理として与えられているにもかかわらず、前者と比べると論理的な厳密さの追求が却ってごちゃごちゃして、何が本質なのか(僕には)わかりにくい。というわけでいままで僕は実数がはっきりとは理解できていなかったのだな。いや別に実数が何かわかってもそんなにありがたいことはないと言われるかも知れないのだが、まあそんなことはいいのである。僕にはおもしろかった。
なお、たまたま僕の高校の大先輩である高木貞治先生の超有名な『解析概論』を見るとそのあたりは極素朴であるが、おおらかに本質を提示していてなかなかよろしいのではないでしょうか。全然厳密ではないのだけれどね。とにかく小平本にハマっています。
もうひとつ。小平本では実数の閉区間(じつは開区間も)が非可算集合であることが証明されているが、杉浦本にはたぶんその証明はない。有理数の全体は加算集合であるが、実数はそうではないという、大きなちがいがあるけれども、それを知ってもあまり役に立つことはないので杉浦本は省略したものでもあろうか。そのあたりが両者の「思想」のちがいなのかも知れない。小平本の証明では、有理数をどれだけたくさん集めても実数よりはるかに「小さく」(あるいは「短く」)なることが直感的にわかるようになっている。このあたりも小平先生の説明が「自然」であるという感じを与える部分なのである。

軽装版 解析入門〈1〉

軽装版 解析入門〈1〉

軽装版 解析入門〈2〉

軽装版 解析入門〈2〉

なお、実数の濃度が有理数(あるいは自然数)の濃度より大きいことはカントールのいわゆる「対角線論法」で証明されることが多いが、上の「実数の閉区間非可算集合である」というのはそれとはちがう。対角線論法で証明してあるわけではない。もっと直接に、実数と有理数の性質のちがいを使ったものである。つまり、有理数をいくら集めても実数を覆えないことから証明するものである。ちなみに、対角線論法での証明もちゃんと書いてあることを断っておこう。杉浦本にも対角線論法は(付録に)ある。