『南方熊楠 土宜法竜 往復書簡』/伊藤比呂美『伊藤ふきげん製作所』

曇。
図書館から借りてきた、『南方熊楠 土宜法竜 往復書簡』読了。放っておくときたないものが湧出してきて閉口なので、朝からずっとこれを読んでいた。熊楠のいわゆる那智書簡を一気に読み切る。これは熊楠の脳力の絶頂を示す、きわめて重要な書簡群である。これまでも中沢さんの紹介や、中沢さんが編んだ河出文庫の五巻の選集で一部は読んでいたが、すべてを読むというのはやはり格別だった。熊楠は呆れるほどしつこく土宜法竜に絡んでいるわけだが、これがまたじつに奇文である。どうしてこんなにしつこいのだか知れず、法竜も閉口したにちがいないが、そういう中で突然に「南方曼荼羅」について滔々と語り出されたりと、まったくインプロヴィゼーションそのものだ。それらの内容はなかなか自分には深遠すぎるのだが、中沢さんのパラフレーズを参考に、これまでも考えてきたし、これからも考え続けることだろう。なお、本書末尾にはその中沢さんによる解説「書簡による南方学の創生」が収録されていて、久しぶりに目を通したが、改めて読んでも非常に内容が濃い。いま新著『熊楠の星の時間』を読み返しているし、また『森のバロック』も読み直そう。そして、上に挙げた河出文庫版の選集は是非読み返さねばなるまい。どうせなら全集が欲しいのだが…。

南方熊楠・土宜法竜往復書簡

南方熊楠・土宜法竜往復書簡

伊藤比呂美『伊藤ふきげん製作所』読了。やー、おもしろかったのだけれど、それにしたって親って大変ですね。子供のいない自分が、いかにラクをしているかがわかる。これだけ子育てに苦労しても、子育てってのはいいものなのだろうか。まあいいとか悪いとかいう前に、子供がいたらとにかく育てるしかないわな。僕は妹夫婦の子育てにいつも感心しているのだけれども、妹のいうところでは、別に子供がいないってのもアリだと思うよということでありますが、これは独身の自分に配慮してくれているのだろうなと思う。それにしたって、妹夫婦を見ていても子育ては大変そうだ。本書は著者の子育て奮闘記なのであるが、確かにこういうのが当り前に生きるということなのだと思う。年頃の子供をもつ親には、本書はもしかしたら役に立つかも知れない。子育てが大変なのはあなただけじゃない、皆んなそうなんですよということを納得するためにも。さて、僕などは本書から何を受け取ったらよいものであろうか。でも、何のためにもならなかったことはきっとないというのが正直な感想である。たぶん、読んで意味はあった。
伊藤ふきげん製作所 (新潮文庫)

伊藤ふきげん製作所 (新潮文庫)