晴。のち曇。
早朝出勤。
#
図書館から借りてきた、古井由吉『人生の色気』読了。著者への聞き書きをまとめたもの。「人生の色気」とはよくも名づけたもので、本書の十中八九はエロスに関することである。と云っても著者の実体験などが書いてあるわけではないが、古井由吉さんというのはエロスを書いてきた作家なんだな。って恥ずかしながらあまり読んでいないのだが、とにかくエロスに関してじつに繊細敏感。我々の世代に関して云えば、どうして現役世代(あるいはそれ以降)はエロスに対する関心が薄いのか。著者も言うとおり、いまの男性は女性に性欲をあまり感じない。性欲がないわけではないのだが、ネット上の対象などで手早く処理してしまうのであって、現実の女性に対しては、面倒なことになるくらいなら敬遠するという感じだろうか。村上春樹の小説みたいに、後腐れなくさらりと寝てくれるなら、歓迎するだろうが。古井さんは言っているが、求められなくなった女性たちは、必然的にエロティックな雰囲気を発散させなくなる。化粧も、近くで見られるというよりは、10m 離れてよく見えるようにやっていると。まあそれはどうなのか知らないが、例えば AKB48 その他のアイドルたちは平気で大胆なランジェリー姿を見せているけれど、どうも本当にエロティックなんだろうかという感じ。まあ彼女たちはなかなかギラギラしていて、肉食系なんだが、熱烈に応援しているファンは彼女たちに果たして性欲を感じているのか知らん。
古井さんは性欲だけでなく、日本人の精力自体が衰えているという説で、確かに今や精力で脂ぎった中年男というのは、なかなか見られなくなった気がする。実際、自分ももう中上健次が死んだ歳ではないかと思うが、作務衣を着ても未だに子供みたいな顔をしている。田中角栄みたいな顔の政治家もいなくなった。小沢一郎なんていうのは最後のそういうタイプだろうな。安倍も岡田も政治家としてどうしようもなく貧相な顔をしている。
しかし、どうしてなんだろう。古井さんのつぶやきにあったが、「バブル」というのがひとつの転回点だったのか。自分はまさにバブル世代である。僕は AV やネットも大きいと思うし、もちろんそして携帯もエロスに何の影響もない筈がない。古井さんは『死の棘』は携帯があったら小説にならなかっただろうし、自分の小説世界にも携帯はないと言っている。むしろそれは、これからの世代の小説家の課題になるだろう。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/11/27
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (43件) を見る
それから古井さんが、つまらないのがおもしろいということもあると言っていたのには、我が意を得たりである。僕も、ここでつまらないと書いても、たいていはつまらないのがおもしろいのである。読んでいても聴いていても、時間が無駄ということはまずない。腹を立てるのも愉快だし、嫌な気分になるというのは高級な体験であったり。