荻上紘一『多様体』

日曜日。雨。
音楽を聴く。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第十番K.330(ピリス、参照)。

中沢新一『日本文学の大地』を繰り返し読んでいる。本日付の朝日新聞書評欄に、島田雅彦による書評が出ていた。小さいけれど、なかなかいい書評だったと思う。それ以外に本書の反響があったのかどうか、管見には入ってきていない。まあ、本書はそれほどわかりやすい本ではない。特に、概念操作に長けた秀才の頭には、本書の中身は残らないだろう。自分などはあまり頭がよくない分だけ、わかるところがある。本書は日本の古典を扱って、我々が古典を読む時に頭の中に生じる霊的流動の作用を、まるで流体力学の実験のように精密に測定して、文章として描き出している。そのバックグラウンドには、日本史全般、宗教史、文学史等の該博な知識が控えていて、生き生きした比喩を支えている。このような瑞々しい文章を読むのは、大変な喜びだ。残念なことがあるとすれば、収録された文章は字数の制限があったのであろう、それぞれがあまりにも短い。一大シンフォニーを作ることのできるモチーフが、小さなピアノ曲として提示されているだけなのだ。ここからの展開は、読者に任せられているということであろうか。しかしそれには、あと一〇〇年くらいは待たねばいけないような気がする。そのくらいすれば、我々も本書の重要性が、少しは身につまされるようになってはいまいかというのが、自分の期待であり、願いでもある。

日本文学の大地

日本文学の大地

図書館から借りてきた、荻上紘一『多様体』にざっと目を通す。相当にユニークな教科書。あまり見ない話題が少なくないので、幾何学が好きな人は目を通されるとおもしろいと思う。小ネタでおもしろいのも色々あって、例えば「正三角形に内接しながら回転できる凸閉曲線が、円以外に存在する」(p.45)なんてのには、目が点になった(「藤原・掛合の二角形」というらしい)。僕はこういう本、好きですね。もちろん、骨格はしっかりしているので、ちゃんと教科書として使えます。記号の使い方もなるたけ厳密にしてあるので、そういうところも親切。
多様体 (共立講座 21世紀の数学)

多様体 (共立講座 21世紀の数学)