養老孟司『いちばん大事なこと』

曇。
音楽を聴く。■バッハ:二台のピアノのための協奏曲ハ長調BWV1061、ハ短調BWV1062(シフ、ピーター・ゼルキン参照)。BWV1062は、ヴァイオリン版も好きだ。■バッハ:イタリア協奏曲BWV971(シフ、参照)。■フランク:交響曲ニ短調バーンスタインNYPO 1959)。この曲を聴いていると、まだまだ先は長いなあと思う。すごい射程。しかし、小林秀雄が(確か)この曲を聴いて吐いたっていうのは、ちょっとわかる気がする。■フンメル:ピアノ三重奏曲第六番op.83(トリオ・パルナッスス、参照)。終楽章がメンデルスゾーンみたいで、なかなかいい。

養老孟司『いちばん大事なこと』読了。環境問題ための本、などと単純化してはいけないか。養老先生は、安易な単純化をいけないことだとされているから。特に、「じゃあどうしたらいいんですか」とすぐ云うのを咎められている。自分の頭で考えていない証拠だから。環境問題などは、とても複雑な問題で、簡単な答えがでない。自然というものは、非常に複雑なシステムだから、あることをすれば、思いもよらないところに影響が出たりする。大雑把なところを決めておいて、試行錯誤してやっていくしかないのである。
 しかし、先生が敢て単純に言っているのを引けば、「環境問題は最大の政治問題なのである」ということだ。ふつうは科学の問題かとも思われるかも知れないが、ちがうのだ。詳しくは本書をお読み頂きたい。また、どうして「生物多様性」なんてものが大切なのか。色々な答えがあり得ようが、先生は「人殺しはいけない」というのと同じだと云う。まさにそのとおり。生物のあり方はお互いに深く絡み合っているというのがひとつの理由にはなるだろうが、僕も「大事なものは大事なのだ」と敢て言いたい。これは、理由なんてものをむしろ設定しない方がいいと思う。人間が生き物である以上、「生物多様性」というのは人間の根本に関ってくるしかないのである。
 またこれも、「じゃあどうしたらいい」云々と呪文のように聞かれるので、先生が敢て単純化しているのだが、都会と田舎の「参勤交代」をやれと言っておられる。これは、色々なところで仰っている、先生の提案だ。これも賛成である。都会だけに住んでいると、生物多様性も何もないだろうと思う。それ以外にも効能はいっぱいあるから、これは政治家(でなくてもいいけれど)が真剣に取り組むべき考え方であろう。
 養老先生の新書はブックオフなどで安く売っているから、中身のある本を読みたい方には、是非お勧めである。こういう複雑な思考のできる人は、今の日本では洵に貴重であろう。

いちばん大事なこと―養老教授の環境論 (集英社新書)

いちばん大事なこと―養老教授の環境論 (集英社新書)

ジェイン・ジェイコブズを読む。

音楽を聴く。■ニルス・ウィルヘルム・ゲーゼ:幻想小曲集op.43、ヨハン・カール・エシュマン:幻想小曲集op.9、カール・ライネッケ:幻想小曲集op.22、ニールセン:幻想的小品、シューマン:幻想小曲集op.73(ディミトリ・アシュケナージウラディーミル・アシュケナージ)。クラリネットのディミトリは、あのアシュケナージの息子。上手い下手と云うより、まだきちんと演奏しようとしすぎている。どうしても比較することになるが、父親の方のピアノはさすがで、全然でしゃばっていないのに、じつにチャーミング。ただ、このアルバムに入っているのはめずらしい曲が多く(自分はシューマンのしか聴いたことがなかった)、それらの魅力は充分伝わってくる。というわけで、賢明な選曲だった。めずらしい曲が聴きたい人には、お勧めできるかも知れない。ヒンデミット:室内音楽第五番op.36-4(シャイー、参照)。