家近良樹『江戸幕府崩壊』

曇。
音楽を聴く。■ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第十番op.96(デュメイ、ピリス、参照)。どうしてベートーヴェンは、「クロイツェル」のあと、このシンプルで謎めいた曲を書いたのか、不思議な気がする。また、その謎ぶりがよくわかる演奏だ。デュメイとピリスのデュオは、少なくともベートーヴェンに関する限り、上々の成果を上げたと思う。■シューベルト交響曲第五番(アバド参照)。アバドの指揮のせいなのか、まるでハイドンのように晴朗な曲だ。でも、いまひとつ感が拭えない。シューベルトっぽくないのだものなあ。■ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第一番op.26(メニューイン、ヴァルター・ズスキント、参照)。メニューインブルッフとはと思ったが、意外と情熱的でよかった。ズスキントの指揮も、一時代前の音楽づくりだが、却って雰囲気が出ている感じ。それにしても、自分はこの曲、あまり聴かないが結構好きなことがわかった。■バッハ:平均律クラヴィーア曲集第一巻から五曲(リヒテルLive1962、参照)。リヒテル平均律クラヴィーア曲集をめずらしく全曲スタジオ録音していて、これは不朽の名盤と云うしかないようなものであるが、こうしてライブ録音(抜粋)を聴いてみると、こちらもいいので困って(?)しまう。それほどスタジオ録音とちがう演奏をしているわけではないが。

家近良樹『江戸幕府崩壊』読了。副題「孝明天皇と『一会桑』」。元本は、文春新書の『孝明天皇と「一会桑」』。何の気なしに読み始めたのだが、そうしたら驚くべき歴史書だった。誇張して云えば、明治維新史を一新するほど画期的な本である。まず、副題にある「一会桑」であるが、これが著者の造語であるかは知らないけれど、一橋慶喜会津藩桑名藩を指すもので、本書の決定的に重要なタームである。本書の問題意識は、薩長が本当に最初から「倒幕」を意識していたのであろうか、というものである。むしろ、最初の攻撃対象は「一会桑」だったのであり、倒幕というのは、徳川慶喜の戦略に追い詰められた薩長が、最終的に「鳥羽伏見の戦い」で窮鼠猫を噛んでしまった末にあったものである。著者の見立てはそういうものであり、本書の記述は説得的だ。だいたい、薩摩藩の内部ですら意見はわかれており、大政奉還を行った後ですら、巨象であった徳川家に簡単に戦いを挑めるものではなかった。西郷や大久保ですら、もちろんヘゲモニーを握ろうとはしていたものの、倒幕ということは考えていなかったのである。
 本書の特徴としては他にも、極端に攘夷を唱えた、孝明天皇の果たした役割の大きさを明るみに出している。また、これも最近のトレンドであるが、幕閣は必ずしも無能ではなかった。徳川慶喜もまた然りで、彼は非常にうまくやったのであり、鳥羽伏見の戦いは痛恨のミスであった。その他、記述の解像度がかつての歴史書を凌いでおり、維新史というものが至極複雑なことを教えてくれる(正直言って、自分にも細かいところはよくわからないくらい)。少なくとも、維新史というのは、素人が簡単に手を出せるようなものではないことが、よくわかった。いずれにせよ、画期的な本だという印象は強い。


Perfume を聴く。テクノ・ポップだということで、まずまずかな。しかし、YMO のように志の高いものではなく、飽くまでも消費されるべき音楽としてある。それは、倍音の乏しい、チープな音で音楽が作られていることからもわかる。歌詞も紋切り型で、ほとんど意味作用がない。正しい比較なのかどうかわからないのだが、自分は例えば、きゃりーぱみゅぱみゅの方がおもしろいと思う。まあ、これをもう一度聴くかどうかは微妙だが、Perfume はもう少し聴いてみてもいい。なお、アンチだということではありません。とにもかくにも、アイドルなのですから。今風ではある。
Perfume 〜Complete Best〜 (DVD付)

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