仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』/多田富雄『落葉隻語 ことばのかたみ

晴。
音楽を聴く。■ブラームスピアノ三重奏曲第二番op.87(デュメイ、ピリス、ワン、参照)。ブラームスにしては、相当に地味な曲。

仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』読了。どちらかと云うと左がかっている自分だが、本書はとても面白かった。中身は、ヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエクらの保守思想の検討である。自分などが言うのも何だけれど、「チャート本」としては至極優秀なのではないか。個人的にはシュミットとハイエクが特に面白かった。両者とも自分は一冊づつしか読んでいないと思うので、特にハイエクはきちんと読んでみたい。終章の、現代日本の大学批判は、唐突でこれは何だという感じ。本当にどうでもいいが、著者近影は何だかボーっとした顔で、仲正先生大丈夫ですかと思ってしまった。

精神論ぬきの保守主義 (新潮選書)

精神論ぬきの保守主義 (新潮選書)

図書館から借りてきた、多田富雄『落葉隻語 ことばのかたみ』読了。恐らく著者最晩年の著書だろう。著者はもちろん世界的な免疫学者であるが、新作能を書かれるほどの方でもある。本書は著者が重い脳梗塞を発し、半身不随になられ、さらに前立腺癌を発症された後に、渾身の力で書かれたものである。深い感動を与えるという意味で、文学的な力をもった本で、粛然と襟を正さずに読むことはできない。しかし、これは普通の意味で「闘病記」ではないようにも思える。病は、この時点での著者の背景に過ぎず、著者の魂がこちらの心に伝わってくるような文章だとでも云うべきか。著者が日本人が心を失っていく様をしきりと憂えておられるのには、何とも言いようのない気持ちがした。安心して生活していくこともできず、安心して老いていくこともできず、弱者はいないものとして扱う今の日本というのは、本当に何なのだろうと思う。そうしたことに気づかず、現代日本で生きていける人というのは、幸せであろう。自分などはもう、半分諦めている。暗い気持ちでは、日々生きていくことはできない。別のポジティブな方から、著者の訴えかけに応答するようなことができれば、本望なのだが。
※追記 著者が発見されたサプレッサーT細胞であるが、Wikipedia によると、現在その存在が疑問視されているらしい。著者の代表的な業績だが、どういうこと…?
落葉隻語 ことばのかたみ

落葉隻語 ことばのかたみ


法界に常住するということ。